病みて語る記憶 (2)
「……眠れない……」
すでに同じことをアモンは十回以上も口にしていた。
テオドールに無理やり食べさせられたスズタケのスープに対する吐き気はすでになくなっていたが、日が落ちてから急激に上がり始めた熱の影響で、意識は朦朧としつつも、苦しさが勝る身体は一向に睡眠を許してくれない。
「いいから目を閉じててください。時間が経てば自然と寝付けますよ」
新しい水まくらを用意しながら、テオドールが答える。
アルセイデスによれば、恐らくこの熱が峠らしい。
今日一晩寝れば、明日にはほぼ回復するだろうと。
無論、アルセイデスの見立てに疑問があるわけではない。
しかし、これまでに見たことも無いほど弱りきったアモンを見て、内心は心配であるのも事実だった。
時間はとうに深夜を回り、日をまたいだというのに、症状は一向に改善する様子は無く、寝室にはアモンの苦しげな荒い呼吸音が響いていた。
もはや自力で頭を上げられなくなったアモンの頭を持ち上げ、水まくらを交換する。
替えの水を汲みに台所へ向かう際、ふとアモンの側を離れることを不安に感じている自分に気づいた。
単純に、疑問だった。
あんなバカ公爵がどうなろうと自分の知ったことではないはずなのに。
あのバカがもし、どうにかなってしまったとしても、自分は以前の暮らしへと戻れば済むだけのこと。そう考えていたはずなのに……。
はっとして、テオドールは自分の疑問を振り切るように強くかぶりを振った。
疲れだ。
それに寝不足も原因だろう。
こんな妙な考えを起こすのは、きっといつもと違うこの状況のせいだ。
「……なんでもない、なんでもない……」
まるで自分自身に言い聞かせるようにつぶやくと、テオドールは台所の戸を開けた。




