森からの異邦人 (8)
オストゥムの帰ったあとも、アモンの不機嫌はしばらく続いた。
テオドールに林檎酒と軽い食事を頼み、書斎に入って気に入りの薬草学の本を読んでいる最中も、胸の辺りがむかついてたまらないといった具合だった。
しかし、いつもなら林檎酒の瓶と杯、それに丸々一個のパンと、雑に切ったチーズを盆に載せてもってくるのが普通のテオドールが珍しいことに手ごろに切り分けたパン、とき卵に細かにしたチーズと野草を入れ、軽く塩を振って焼いたものを持ってきて、しかも林檎酒をわざわざ杯についでいくのを見、一瞬怒りを忘れてあっけに取られた。
それがいつも通りの粗暴な態度のまま行われたから、余計にアモンの疑問は大きかったのかもしれない。書斎を出る際のテオドールの手際は相変わらず手荒であり、閉まるドアの風圧で林檎酒の瓶は揺れた。
とはいえ、色々と考えさせられることはあるが、ともかく今現在の空腹を満たすことに専念しようと、アモンは目の前の食事を黙々とやっつけ始めた。
そのほぼ同時刻。
「テオドールさん、いいお話ですよ」
メイフレイルの食事を片付け終え、下げた食器を持ち、台所へと訪れたアルセイデスは、嬉しそうに話しかける。
「さっきの城門でのいきさつ、全部こちらでも聞こえていましてね。メイフレイルさん、あいつらにひどい目に遭わされたことで貴族に恐怖心を抱いていたみたいですけど、殿下のお人柄が分かったらしくて、どうやら心を開いてくれたみたいです」
「……そう、それは良かったね」
洗い物をしながら、気も無く返事をする。
それを少し不思議に思いつつもアルセイデスはテオドールの横へ食器を置いた。
すると、
「あれ?」
アルセイデスがテオドールの変化に気づいた。
「……どうしたんですテオドールさん、顔色が変ですよ?」
言われてテオドールは突然に取り乱し、濡れた手も構わずにアルセイデスを台所から追い出しにかかる。
「出てけ!!」
「ちょ、ちょっと、だってテオドールさん、顔が真っ赤……」
言い終わらぬうち、アルセイデスを追い出した台所の戸はテオドールの手で堅く閉じられてしまい、以後日が落ちるまで開くことは無かった。




