森からの異邦人 (6)
森人の少女は、名をメイフレイルといった。
これを聞き出すだけでも意識が回復するまでの二日間を要した。
肩の傷はうまく骨に弾かれて急所を外れており、貫通こそしていたが、逆にそのおかげか傷口は綺麗なもので、塞がるのにもそれほど時間はかからないように見える。
念のため町から医者を呼ぼうかとも考えたが、亜人差別の強いこのご時世、明らかに森人と分かる女をまともに診る医者がいるとも思えず、これについては却下となった。
「……で、どういう経緯でこんな目にあったのか、その辺りを聞きたいんだがね……」
ベッドの上に半身を起こしたメイフレイルに、アモンが訊ねる。
しかし、少女は返事の代わりに深いうつむきと、小刻みな肩の震えで答えるのみだった。
そしてあまりにも進展しない二人の会話を見かねて、アルセイデスが助け舟を出したのはそんなやりとりが五度目を数えようかといったときだった。
「メイフレイルさん。この御方は今でこそこんな辺境にお住まいになっていますが、恐れ多くも現国王、ウェイディ国王陛下の従兄弟に当たられるアモン公爵殿下なんですよ。何も心配する必要はありませんから、怖がらずに全て話してください」
「貴族……!!」
アルセイデスの説明でアモンの素性を知った少女は、明らか今まで以上におびえ始めた。
まるで自分を射た本人を前にしているように。
思いもよらず事態を混乱させてしまい、困惑するアルセイデスを他所に、
「……どうやら私はここにいないほうが良いようだな……アルセイデス、お前もそろそろテオドールと交代しろ。元来のお前の役目である庭師の仕事が待ってるぞ」
わざとらしく冷たい物言いをして部屋を出る。
それはアモンが、ある種の確信を持ったときに行う無意識の行動の一つだった。
そして、大抵それは当たるのだ。
(私の悪い予感はやたら当たるからなあ……)
部屋を出、書斎に向かったアモンが城の外から響く大きな男の声に気づいたのは、まさに書斎の戸を開けようとしたその時だった。




