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Nympholic Amon  作者: 花街ナズナ
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森からの異邦人 (4)

「殿下!!」


アルセイデスが悲鳴のような声を上げたのはすでに深夜を回ったころだった。


書斎の机にもたれかかり、低い寝息を立てていたアモンは、すぐさま飛び起きると部屋の外に飛び出した。


「ご指示通り、苦しそうな様子だったのでスナネグサのチンキを飲ませたんですが、それでも一向に症状が良くならないもので……」


廊下でアルセイデスは赤くなった目を不安そうに主人に投げかける。


それは睡眠不足によるものか、それとも泣いているのか……。


アモンは無言で足を階下の治療室に向けた。寝起きとは思えぬ速さで階段を駆け下ると、廊下を飛び越えるように部屋へと向かい、即座にドアを開けて早足でベッドへ近づく。


瞬間、アモンは少女の容態を目の当たりにし、刺されるような胃の痛みに襲われた。


少女は見つけた時よりも荒い息を吐き、顔色は蒼白から土気色に変わっている。


嫌な予感を振り払いつつ、アモンは少女の脈を取り、胸に耳を当てる。


すると、さらに胃の痛みは増した。


「……くそっ、嫌なほうに転んだらしい。心臓が弱ってる……」


拳で自分の額を叩きながら、アモンはうなるように言う。


「あの程度の出血なら、大丈夫だと思ったんだが……」


予想していたとはいえ、その中でもかなり運の悪いほうへ傾いた少女の容体を見、アモンは狼狽と憤慨を入り混じらせて床を蹴った。


「殿下……一体どうしたら……?」


アルセイデスの不安げな声に一瞬、怒りが込み上げる。


何故、私に問う?


何故、私にすがる!


私が何でも出来るとでも思っているのか!!


アモンは情けない表情をアルセイデスに見せまいと無意識、部屋の外へと体を返した。


すると部屋の外でもう一人の従者、あの小生意気なテオドールがアルセイデスと同じく、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。


愕然とした。ことここに及んで、回りの全てが自分を頼りきっている。


吐き気がした。あまりの胃の痛みに心臓までが痛むようだった。


だが、


「……狂血草を使うぞ……」


公爵たる自分に、後退することは許されない。


「狂血草!!」


搾り出したようなアモンの発言に、アルセイデスが明らかな驚きと不安の声を上げる。


「でも、殿下あれは……」

「やかましい! この期に及んで手段を選べるかっ!!」


アルセイデスの問いを断定的に振り切る。


狂血草とは、通常は野山に生えるキキョウ科の多年草である。


心臓病や低血圧症の治療などに使われるほか、興奮剤として用いられる。


しかし、有効な服用量は極めて少量であり、誤って多量に摂取すると不整脈・眼底出血・肝機能不全などを引き起こす危険性が高い。


そしてこの場合、投与量は間違いなく安全値を超えたぎりぎりの量が必要となることを、主人も従者も共に理解していた。


だが現実として、今この状況で行える有効な治療は他に無いのも事実である。


「計量器を用意しろ! 真水で狂血草チンキ一滴を六十倍希釈だ! それを一時間おきに大さじで一杯ずつ四回投与、分かったな!!」


アモンの指示の下、アルセイデスは主人の希釈した狂血草チンキを投与した。


一時間に一回。四時間で合計四回。それは恐ろしく長い四時間だった。


一分一秒の感覚が異質に思えるほど。


耐え難いほどの精神疲労。しかし、時間は確実に過ぎる。


そして良かれ悪しかれ、結果は必ず訪れる。


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