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ボツ  作者: DaTa
第一章
4/7

Rrecollection [リコレクション] 2

左腕を嵌めて、左目を押し込んで、約10分。

「ふっかぁーつ!」

我ながら、素晴らしい身体だ。・・・憎たらしいくらいに。なんだよこれ、インスタント的な感じ。はははっ。

朝霧は明るく言った後に暗い顔をして俯いた。しかし、直ぐにバッと顔を上げる。

「よしよし、じゃあ七音のところに行こうかなっ。」

先ほどの暗い顔は何処へやら、明るい顔で歩き出した。

『自分はまだマシだ』と自分に言い聞かせていた。


少し歩くと、一つのドアの前で朝霧は止まった。

何も躊躇せず、左腕でスライド式のドアを開ける。

「ただいー・・・ま?・・・・あれあれ?何してるの?」

「あ、戻ってきた。いや、達樹がDVD置いったんだよねぇ。何か分からんけど今から見ようかなと。」

一度月丘は首を捻り朝霧を見るが、また首を元に戻しTVのリモコンを弄っている。

「ただいまって言ったら、お帰りって言ってくれるんじゃないんだ?」

「あ、やっと写った。」

「僕の扱いひどくない!?」

月丘は、リモコンを置いた。朝霧は完全にスルーだ。

思わずクスリと小さく美墨は笑ってしまったが、直ぐにTVに目を奪われた。

「・・・・母さんっ?」

テレビには美墨の母親が映し出された。

ズームで写されていたそれは、次第に遠ざかる。どうやら随分と遠くから撮影しているらしい。

「あ、この場所。あそこじゃん?」

美墨君が事故ったとこ。と無表情に朝霧が付け加える。

画面の向こうには、曲がったガードレールに、小さな血溜まり。

その血溜まりに触れる、美墨の母親とされる女性。その表情は真面目で、その黒色ががった赤色の液体を何やら試験紙のような物につける。

カメラからは遠すぎてどうなっているのか良く分からない。しかし、女性は怪しくグシャリと表情を潰して笑い、同時に口を動かした。

「・・・あの子だ?」

テレビから達樹の声がする。

達樹は耳が良い、獣並みだ。女性が言ったことを復唱しているのだろう。と月丘は推測して頷いた。

「・・・・!?・嘘っ!?」

達樹の驚いた声がして、カメラが揺れる。

「今のとこ、ちょっと巻き戻してよ。」

朝霧がいうと、月丘がリモコンを使って巻き戻した。

そしてスロー再生のボタンを押す。



――かあ・・・さん?

「嫌だ・・・っ!?」

40過ぎ程の母親の顔は見る見るうちに若返っていく。

妖艶に若返った女性はもはや母親だったことの面影は無い。

ニタリと妖しく笑うと、口を動かした。

「・・・だーれだ。・・・ってねぇ。タツキ怖がってるかもねぇ。ぎゅーって抱きしめて愛でてあげようかなぁ。・・・な、何さ?僕、結構真面目に言ったんだけど??」

「お、お前その気があったのか?」

朝霧は、女性が最後に言った言葉を読唇術で分かったらしく、口にする。

月丘は朝霧の後半の言葉を聞いて、引きつった笑顔を向けて少し後ずさり、軽蔑の言葉を吐いた。

「ウソだ・・・ウソだ!!あれは誰なんだよ!!」

「ん・・大丈夫?」

月丘は蹲ってしまった美墨を気遣い、手を差し伸べようとするが、朝霧の言葉に止められた。

「あれは、政府直轄の生物遺伝子研究の中々偉い人だよ。・・・君の母さんなんかじゃない。」

それを聞いて美墨は朝霧を睨んだ。

その美墨を見て朝霧は目を見開いた。


――白目が黒い?そんなありえない。僕の左目だったんだぞ?適合しないわけっ・・・

「いっ!?」

朝霧の身体は入ってきたドアを突き破り廊下へと飛んでいく。

朝霧に拳を振るったのは、間違いなく美墨なのだが、明らかに常人離れした腕力だった。

美墨は息を荒げて呼吸を繰り返しているが、視線の先にはしっかりと朝霧を捕らえていた。

「痛いなぁ・・・その腕と、目気に食わなかったの?・・・真っ黒じゃんか。」

美墨の左目の白目と左腕は漆黒に塗られてしまったように真っ黒になっていた。

――マズイねぇ。あいつのデリカシーの無さは一級品だねぇ。あはは。

月丘は内心笑いながら焦っていた。

朝霧の能力は兎も角、月丘の能力は使い勝手が悪い。

問答無用で壊すのは得意だが、加減が難しいのだ。

美墨を殺すなら簡単かも知れないが、捕まえたりすることには向いてない。

――使うなら腕の一本くらい覚悟してもらわないとねぇ。


「七音。とりあえず捕まえよう。」

朝霧が月丘にそういうと、美墨は朝霧より近い月丘を睨みつける。

「えぇ!お前俺に振るなよ!!」

月丘は後ろに飛び退くが美墨はその差を埋めてくる。

――糞早いし!?

月丘は美墨の左拳を右の掌で受け止め、左腕全体でそれを受け止める。

ギシリと左腕が軋む感じがして一瞬顔を顰めるが、その後小さく微笑んだ。申し訳無さそうに。

「・・・ゴメンね!」

「!?・・あ゛っ!」

月丘は一言、謝ると同時に美墨の様子がおかしくなり蹲り動かなくなってしまった。

「流石、七音さま!」

朝霧が何処からか鎖の様なモノを持ってきて、美墨を柱に縛り始める。

「お前、絶対ゆるさねぇ。」

「ははっ。ごーめんって。今度何か奢るからさぁ。」

月丘がいくら酷いことを言おうと朝霧は茶目っ気を入れて冗談っぽく返してくる。

こいつ相変わらず面倒くせぇなと月丘はため息を一つ吐いた。

いきなり殴りかかってきた美墨は鎖でグルグルと巻かれ、柱に繋ぎ止められている。どうやら意識は無いらしい。

「っていうか、相変わらずエグイよねその力。・・・いったぁ!?」

無言で朝霧に蹴りを入れる。

「いいから、この子の見張りちゃんとしといてよねぇ・・・。あの良く分からん黒い目と黒い腕はお前の所為でもあるかもしれないんだからさぁ。」

「わ、わかったって!だからそんなに睨まないでよ!」

月丘はもう一度細くなった目で朝霧を見ると、ため息を吐く。

よくため息つくなぁと口には出さないが朝霧は思った。

「お前が何を考えてるか分からんが、頼んだ。俺はお前程頭良くないからねぇ・・・。まぁ、よろしく~。」

「え?もう、行っちゃうの?」

「右手の小指折れたっぽいからねぇ。ちょっと冷やしてくる。」

月丘は右手をプラプラさせると部屋から出て行った。


「あらら・・・さてどうしよっかな。」

朝霧は、真っ黒になった美墨の左腕を手に取ってみる。

――質感は普通の肌。骨は・・・うん、殆ど折れてる。七音の能力は相変わらずの破壊力だ。

入院服のような服の腕をまくってみると、左腕を接合した部分より下、つまり移植した左腕だけの変色であり、元の身体には異常は無い。

「うーん良くわかんないや。」

ペタンと後ろ向きに倒れて仰向けになる。

剥き出しのコンクリートの天井に少し空しさを覚えた。

丁度、コンクリートの床も少し冷たくて気持ちよくて。

――今日はこのまま寝てしまおう。



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