Rrecollection [リコレクション] 1
「可愛そうにねぇ・・・。」
――どちらが幸せだったのか・・・?まぁ、俺には関係ないか。
月丘 七音は白いベッドに横たわった少年―美墨を見ながらため息をした。
「ってか何時起きんのコイツ?俺絶対良い様に使われているだけだよねぇ・・・。」
月丘は黒い髪を生やした頭を掻きながら言った。
その時、美墨が薄らと目を開いた。
「んっ・・?」
「おーい。起きたぁ?」
月丘は美墨に声を掛けるが、まだ意識はハッキリとしないようで、薄ら目を開けたまま固まっている。l
「あれ?・・・おーい。大丈夫?」
月丘は右手を美墨の目の前でプラプラと振って見せた。
すると美墨は両目を見開いてバッと上半身を起こすと、月丘を見る。
「母さん!母さんはどこ!?」
「えぇ?君の母さん?・・・そんなの居ないよ?」
月丘がそう言うと美墨は月丘の両肩を掴んだ。
「どうやら新しい左腕と左目は、調子良さそうだねぇ。」
「何を言ってんだよ!此処は病院だろ!?母さんが居ないわけない!」
月丘がいう言葉は半分は届いていないようで、美墨は母親のことしか気にかけていない様子。
それを見て、やれやれと言いながら月丘は右肩に乗っている美墨の左腕を優しく掴んだ。
「ここは病院じゃないよ。・・・それに君に本当の母さんなんて居ないんだけどねぇ。」
月丘はそう言うと、美墨の左腕、右腕の順番で優しく腕を掴むと下に降ろした。
美墨は訳が分からないという様子で固まっている。
「少し落ち着こうか。話をしよう。・・・まぁ、信じるかどうかは君次第だけどねぇ。」
月丘が言う。その表情は真剣そのもので美墨は何も言わなかった。
「今回、君が事故にあったのは偶然じゃないよ。」
「え!?」
美墨は声を上げた。
「嘘じゃないよ?確かに俺はどちらかというと嘘つきの部類だけどねぇ。君の母さん・・・まぁ、母さんでもないけどねぇ・・・。誕生日だったんだろ?」
「そ、そうだよ・・・でも何でそんなこと!?・・・あんたは一体誰なんだよ・・・。」
「あぁ、ゴメンゴメン。俺の名前は月丘。『月丘 七音』。月丘でも七音でも好きに呼んで。呼び捨てでいいから。」
月丘は右手をヒラヒラを動かしながら言った。
美墨は、未だにわけが分からない様で、顔を月丘から背けた。
「母さんは君が欲しかったみたいだよ?・・・君の死体がねぇ。」
それを聞いた美墨は月丘に掴みかかった。月丘は顔色一つ変えない。
「適当なこと言うなよっ!!今すぐ!今すぐ母さんに合わせろ!!」
美墨は叫ぶように口にした。だが、月丘は相変わらずで両眉を少し下げただけだった。
美墨は月丘の胸倉を掴んでいる。
「あー、どうしたら、信じてくれるのかなぁ・・・。ああ、そうだ、君事故にあったことは覚えているよね?」
「ああ、覚えているよ!それがどうしたのさ!!」
「じゃあ、何で君は生きてるのかな?・・・稀血の君がさ。・・・血が沢山出たのは覚えてるよねぇ?せめて僕達が君の敵じゃないって事は信じてくれないかな?」
それを聞いて、美墨はハッとした。確かに血が沢山出て意識を失ったことは覚えていた。
もしかしたらこの人が助けてくれたのかも知れない。
そう思い、美墨は月丘の胸倉から手を離した。
その後、月丘はヤレヤレという感じで服のしわを伸ばした。
「あれ?起きたんだ?美墨君。」
スライド式のドアがガラリと音をたてて開き、話し掛けてくる人物が一人。
月丘は声を聞き、ドアを背にしたままピクリと反応するとため息を吐いた。
「面倒くせぇ奴がきやがった・・・。」
「何それひどくない!?」
高いテンションで白髪の少年、朝霧が月丘に言う。
それを見ている、美墨は朝霧を指差して口をパクパク動かしている。
「・・・なっ・・・う、腕がない・・・っ?」
それもその筈で、今の朝霧には左腕と左目が無かった。
普通そんな状態で元気良く話せる筈も無い。
美墨は目の前の朝霧の衝撃的な姿に驚いている様子だ。
「あぁ~。大丈夫大丈夫。僕の腕と左腕は今美墨君に付いてるからさ~。なーんにも今までと変わらないでしょ?」
「----っ!!?」
ズイと顔を美墨に近づけると、美墨は言葉にならない声を上げる。
美墨には朝霧がゾンビか何かに見えているのだろうと月丘は思い、朝霧に子声を掛ける。
「お前が居たら話が進まないから出て行ってくれるか?・・・いや、居てもいいけど、腕と目を治してからにしてくれ。」
月丘が出ていけというと朝霧は嫌な顔をするので、腕と目を治してきたらいいと条件をつけた。
まぁ、朝霧が居たほうが、話に信憑性が出るかもしれない。
朝霧はじゃあ治してくると言うとガラリとドアを開けて、部屋から出て行った。
「なっ・・なっ!・・・何なんですかあの人は!?」
「うん、大分俺に馴れ馴れしくなってくれたみたいで嬉しいぞ。うん。」
あっ。と美墨は言うと顔を背けた。
どうやら、月丘に対する警戒心等はほぼ無くなったらしい。
「あいつ、事故現場に居ただろ?あいつが、君連れてきたんだよねぇ。君ここに連れて来られた時点で左目潰されてたし、左腕ペシャンコだったから、あいつの目と腕移植したんだよねぇ。」
さっきからそう言われてると思うけど、と月丘は付け加えた。
美墨は自分の左腕を見た。違和感は全く無いが、二の腕の半分程に手術後の様な跡がある。
次に左手で右目を隠してみるが、左目でも問題なく見えている。
「で、でも、僕はっ。」
「あぁ、稀血でしょ?大丈夫大丈夫。朝霧は万能細胞人間だからね。例えば・・・朝霧の捥げた腕にどんな人間の腕が繋がろうと大丈夫だし、逆に朝霧の腕が誰に繋げられようと大丈夫。」
「そんな滅茶苦茶な・・・。」
美墨は信じられないと言った様子で、左腕を見つめた。
ガラリとスライド式のドアが開いた。
「・・・あら?どうしたの達樹。」
「ん。」
月丘がドアの方を見ると、茶髪の小柄な少年―橘 達樹が立っていた。
月丘も朝霧だと思っていたらしく、問いかけるとフイとDVDと見られるディスクを月丘に対して突き出した。
「・・・あらまぁ、何・・・これ?」
「じゃっ。」
ガラリと音をたてて達樹が出て行く。達樹は恥ずかしがりやな事は分かっていたが月丘は思わず引きつった笑顔を作る
「えぇぇえぇ・・・・。ははは・・・とりあえず見てみる?」
そのまま月丘が苦笑いを浮かべながら美墨に話し掛けてくる。
美墨はDVDが何か分かっていなかったが、これ以上信じれない話を月丘から延々と説明されるのも嫌気がしたので首を縦に振った。