Weird [ウィアード]
窓が無く。壁は剥き出しのコンクリート、木製のフローリングのこの部屋は30畳と広い。それに対し置いてある家具は木製のダイニングテーブルセットと、黒いソファ。整然と整理されているキッチンは使用者が几帳面であることが分かる。
ダイニングテーブルの木製の椅子に座って、少し茶色がかった髪の少年が伏していた。
そこにガチャリとドアが開く音がして白髪の少年が入る。
「痛いなぁ。左腕と左目無くなっちゃったよ。」
左目があった部分を右手で押さえながら、白髪の少年―朝霧 圭吾は言った。茶色の髪の少年は少しテーブルから不機嫌そうな顔をして顔を上げる。
朝霧の左頬には血が流れており、長袖を着ているため分かりにくいが左腕の二の腕の半分以下が無くなっている。
「でも、あっちから僕と車の間に入ってくれるとは思っていないかったな~。始めは僕が車に突っ込まれて、無傷の彼を強制的に誘拐?するつもりだったんだけど・・・。まぁ、面白かったから大丈夫でしょ!」
ソファにゆっくり腰掛けると朝霧は言った。
血がこびり付いた白い髪を気にもしない様子で、黒い瞳をギョロリと動かしながら、写真を手に取っている。
いいなぁ。いいねぇ。
「面白そう。」
「ケイゴ、ニヤニヤしてないで、その無くなった腕と目をどうにかしてよ、見てるこっちが気持ち悪い。」
朝霧に白い髪の少年―橘 達樹が話しかける。
見るからに不機嫌そうだ。
「え?え?何?タツキ、心配してくれてるの?」
ニヤリと朝霧が笑うと、達樹はギロリと朝霧を睨む。それを見た朝霧は少し引いた。幼い可愛らしい顔にしては中々凄みがある。
「それに・・・ソファ汚れるでしょ!・・・後で新しいの買って来てよ!」
「ええぇ!僕怪我人何だけど?」
「普通の怪我人は左腕と左目無くして、のんびりソファでくつろいだりしない!!それに、絶対わざとでしょ!無傷でつれて帰ることも出来たでしょ!」
達樹はそういうと朝霧の額を人差し指で突いてグイと押した。
「ひ、ひどっ!いやいや咄嗟のことで対応できなかっただけだって!ホントホント!信じてよ!」
「信じない!!いいから、早く!腕と目治してからね?新しいソファが汚れると面倒臭いから。」
そういうと達樹は鼻を鳴らして部屋から出て行った。
「あーあ、・・・・お姉さんは優しいのにねぇ・・・何でタツキは素直じゃないんだか。」
はぁ、とため息をつく。
――いや、自分もかな。
と思いながら。
「アサギリ ケイゴさんですね?」
「うわああああああああああああああぁ!!そう!そうだけど!すごくビックリしたよ僕!!居るなら居るって言ってくれるかなぁ!?」
いつの間にか後ろに立っているロボットが話しかけてきて、朝霧は後ろを振り向くと同時にロボットと反対方向に飛び退いた。
右目は薄っすらと涙で潤んでいる。
ロボットは、先進的な白い丸みを含んだボディをしていて、恐らく触り心地もいいのだろう。
「失礼しました。タチバナ タツキさんからの指示です。アサギリさんの左腕と左目は直ぐに準備できます。瞬時適応確率は96%。残り4%の可能性で順応に1時間程度要すると思われます。」
機械的にだが、人間の声で話しかけてくるその物体はピカピカと動作していることを表す赤色のLEDを点滅させている。
「OK。分かった!すぐ行くよ!」
「了解しました。後一つタチバナ タツキさんから、伝言を預かっています。」
――えぇ~・・死ね!・・・とかじゃなかったらいいな。あれ精神的に結構来るんだよねぇ。
思わず右頬が引きつった。達樹は朝霧にいつもキツイことを言う。
達樹は天邪鬼なところがあり、全てが本心ではないことは何となくわかっているが、オブラートに包まれない言葉は少なからず傷つく。
「え、え?な、何なのさ?伝言って。キツイお言葉なら僕は遠慮したいんだけど?」
「あんまり無理するなよ。 だそうです。」
間髪入れずに放たれる、ロボットの機械的な言葉に反射的に右頬が元の位置に下がる。
「え、何それ可愛い。」
圭吾は真顔でロボットに言った。
「それは伝言として受け付けますか?」
「いやいやいや。ヤメテ!そういうの要らないから!」
ロボットに焦って首を横に振る。同時に両手を振ろうと思ったが、左腕が無いことを忘れていて、片腕だけ振っていた。