夢じゃない
今回は勢いのままバカっぽく書いてみました、小説としての方向性が微妙です。
暑い、まだ6月だってのに、今日はやたら暑い。
Tシャツが少し汗ばんで気持ち悪い。
快晴に恵まれた日曜日の駅前、小さな駅だが行き交う人達は多い、みんな思い思いの目的があるのだろう、様々な様相の人達が駅に吸い込まれて行く。
「ノリシャケ弁当お待ちどう」
「あっ、はーい」
おばちゃんの野太い声で我にかえる。
弁当屋で弁当を受け取った俺は、駅とは反対方向に歩き出す。
今日、両親が法事やら何やらで居ない、自分で作る甲斐性も無い俺は駅前の弁当屋に昼食を買いに来ていた。
遅れたが自己紹介をしよう、俺は平井哲郎、高校2年で17才、勉強も運動も普通で取り柄と言えば健康くらい、もちろん彼女なんか居ないぞ。
「……はぁ…」
なんか知らんがどっと疲れた…
早く家帰って弁当食ってからも一回寝よ…
どさっ
んっ、ってうわっえっえっ…
前を歩いていたっぽい女の人が倒れた?
「ええぇぇーー!」
周りを見渡す…
誰も居ないし、俺しか居ないし…
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。
いや助けるだろ。
「大丈夫ですか?」
急いで駆け寄って声を掛ける。
………………
反応無し。
……この場合はしょうがない、しょうがない。
「えっと…失礼します」
うつ伏せに倒れた彼女を抱き起こす、顔が地面に着いていたのでそのままは嫌だろうと思ったからだ、下心は無い、無いったら無い。
「Oh!」
綺麗な人だ、二十代前半くらいだろうか、ぴしっとアイロンされたシャツが大人っぽい、っていうかいい匂いだ…っじゃないだろ俺!
「大丈夫ですか?しっかり?」
軽く揺すりながら声を掛けてみるが反応は全く無い。
これはマズイ…
ポケットから携帯を取り出す…
あれ…右…左…後ろ…
無い、忘れて来た!弁当買うだけだから置いて来たんだ。
うわぁ…どうしよう…どうしよう、どうする?えーとえーとえーと…
「……うっ…」
「えっ?」
気が付いた?
彼女と目が合う。
「「……………」」
お互い沈黙、ちなみに俺の立て膝に彼女が寄っかかる体制。
「きゃあああぁぁぁーー!」
「ええええぇぇぇぇーー?」
ぴたーーーん!
ひっぱたかれた。
「何やってるんですか!変態!」
そりゃ無いよ、俺ってそんなに変態面かよ。あまりの異常事態に張られた頬に手をあてて固まってしまった。
「何事じゃぁい!!」
ドスドスと走って来たのは、近所の大工の源さんだ、良かった…知り合いだし弁護してもらおう。
「助けて下さい!」
をいをいをい!助けを求め様とする彼女に突っ込もうとした時。
「こぉのどぐされがぁ!」
えっ、源さんなんか振り被ってる?
って…ええぇぇーー!
「ちょっ…待って待って!三件隣の哲ろ」
んばきぃ!
「ぐはぁ」
そりゃ無いよ源さん………
………………
…………
……
う…
左頬の冷たい感触で目が覚めた。
「冷たい…痛い…」
「あっ、気が付きましたか?」
なぜか布団に寝ていた、目の前には綺麗な女の人、誰だっけ……あっ!
ばっと体を起こして辺りを見渡す、どこかの家の中…
………源さんは…居ない。
「あの…」
「申し訳ありませんでした」
女の人に土下座された。
「ええぇぇ、ちょちょちょっと…」
あわわ人に土下座なんて初めてされた、俺は悪くないのかもしれないが、人を見下ろすなんていい気分じゃない。
「お、お、お願いします、顔を上げて下さい!」
ちょっと俺必死。
「しかし…私が勘違いしたばっかりに…」
とにかく、いいからいいからと頭を上げてもらう、誤解解けてるっぽいし。
「あの…ここは?」
今の状況がものすごい気になった、知らない部屋に知らない布団だし。
「ここは私のアパートです、病院にと思ったんですが、大工の方が『でぇじょうぶだこれくれぇ、唾つけときゃ治らぁ』って言っていたので、近かったこちらに運びました」
源さん…あんた江戸っ子だよ…
「そ…そうですか…で源さんは?」
「あなたをここに連れて来たら現場に戻りました、後であなたの家に行くと言っていました」
うーん…とりあえず状況は掴めたけど…これからの状況をどうしようか考えると…頭が沸騰しそうだ…
「……えーと」
「申し遅れました、私、高橋紫と申します」
またまた深々と頭を下げられた。
「あわわわ、お、お、俺は平井哲郎ですぅ」
俺も布団から出てそれに習う。
……………
なんとなく頭を上げられず、その体制のまま彼女を見てみた。
すごい低いところで目が合った。
………………
「…ふふ…」
「…ははは…」
高橋さんが笑いだして、俺もつられて笑いだす、二人で笑いあってしまった。
「そうだ、高橋さんは大丈夫なんですか?」
高橋さんは道端で倒れたんだ、殴られただけの俺が寝ててどうする。
「あっ、私は大丈夫です、ちょっと…ダイエットしてて、ちゃんと食べていなかっただけですから」
「…そうですか、じゃあ気を付ければ大丈夫…かな?」
「は…はい、本当に申し訳ありませんでした…」
そう言うと高橋さんは赤くなってうつ向いてしまった。
……………
か…かわいいじゃねぇか…第一印象よりずっと幼い感じに見えて萌えてしまった。
「とととにかく、もう俺大丈夫そうです、帰ります!」
俺も恥ずかしくなってきてしまった、長居するのも迷惑だし…帰ってノリシャケ食おう…
「そんな…せめてお茶く「あっ!ノリシャケ!!」
弁当の存在を忘れていた。
「のりしゃけ?」
顎に人指し指をあてて首を傾げる高橋さん…いちいち萌えるなこの人。
「いや、べ…弁当買って、持ってたんすけど…さっきんトコに置いて来ちゃったっぽいッスね…はは…」
言ってみて微妙に照れた。
「そんな…私のせいで大切なお弁当が…」
そんなに大切じゃない。
ぐぅ〜
タイミングよく俺の腹が鳴いた。
「……………」
「平井さん……腹ペコですか?」
絶対天然だ、この人。
「は…はい」
「私、何か作ります!」
「ええぇぇーー」
「えーってなんですか、私料理出来ますよー」
「いやそうじゃ無くて、わ、悪いっスよ」
「全然いいですよ、お礼と言うか…何かもう暇なんです、私」
ねって感じでにこやかに言われた、そんなんもう頷くしか無いやん…よく考えたら嬉し過ぎる展開やん。
という訳で、一人暮らしの女性のアパートでご飯をご馳走になる事になってしまった。
……………
ああ…落ち着かない…手持ちぶさたでそわそわする。
んざっんざって台所から何かを炒める音が聞こえる。
……………
異性の部屋に入るのなんて初めてだ、几帳面に整頓してある、すごい清潔感だ、なお落ち着かない。
「平井さんはおいくつですかー?」
台所から声が掛った。
「あっ、えっと17ッス、高2ッス」
「やっぱ若ぁい、私23ですー」
ふむふむ、予想通りの年齢だ、話してみるともっと幼いけど…
「社会人さんですか?」
台所を隔てた扉越しに話してるからか、ちょっと遠慮が無い俺。
「はいー、事務員やってますー」
「いいッスね、俺も早く働きたいですよ」
本音だがバイトすらしない俺。
「そうですかー?、お給料貰えるけど大変ですよー、私トロいからいつも怒られるしー」
申し訳無いがこれも話してみて納得。
「へぇー、意外ッスね、何かやり手っぽいッスよ」
ヨイショしといた。
「ふふ、そうかなぁ、さぁ出来ました」
扉が開いて、高橋さんがはにかみながら戻ってきた、料理も出来たらしい。
「簡単な物ですがどおぞー」
おぉ、オムライス!俺の好物上位ランクだ。お腹が空いているのもあるが、すごいうまそうだ、遠慮しないで頂こう。
「い、いただきます!」
「はい」
ガツガツといただく、左頬がちょっと痛いけど。
「うまっ!うまい!」
マジでうまい、半熟丁度良いし。
「ふふ…」
高橋さんがニコニコと俺を見てる、うぅ、はしたないのはわかりますがスプーン止まらんのです。
「ごちそうさまッス」
「食べるの早いですね、お粗末様ですー」
ニコニコがたえない高橋さん、お茶煎れますってまた台所に行った。
うーん…彼女とかいた事無いけど、高橋さんみたいな人とだったら幸せだろうなぁ…
「はぁ…」
なんかここにいると、夢を見てしまいそうだ、お茶飲んだら帰ろう…
「平井さん?どうぞ」
わっ、妄想してたら高橋さんの接近に気付かなかった、たじろぐ俺。
高橋さん、キョトンとしてる、頭の上に?マークが浮かんでいる、わけ無いがそんな感じ。
「……………」
うぅ、さっき余計な事考えたからか、意識してしまう。
今日会ったばかりなのに、もうまともに顔を見れない。
「…どうしました?痛みますか?」
俺の頬に手をあてながら、顔を寄せてくる…えっ!
「うおう!」
ずばばっと後ずさる。
「うわぁ、どうしました?」
俺の座ったままスウェー&バックステップに高橋さんもびっくりしてる。
だあーーー、もうダメだ、ここにいるとおかしくなる、帰ろう!
「俺、帰ります!」
「えっ?」
扉にずんずん行く、なんかすごい勢い。
「ち、ちょっと待って」
高橋さんに後ろから両手で両足を掴まれた、っていうかそのまま引っ張られた。
「んがぶっ」
手が間に合わず顔面から床にクラッシュした。
痛い!源さんのパンチ並に痛い!
「な…ないふうんれふか(何するんですか)…」
「ご、ごめんなさい」
おたおたと起こしてくれる、大丈夫ですかを連呼して手で顔をすりすりされた。
……おおう、痛みが引いて行く。
「も、もう大丈夫ッス」
ちょっと近すぎ、俺照れすぎ。
「はい、ごめんなさい…」
そんなに謝られると、恐縮してしまう。
……………
結局もう一杯お茶をいただいてる。
出してもらった濡れタオルで鼻を抑える、鼻血は出てないけどやっぱ痛い。
「あの!連絡先を教えてください」
終始申し訳なさそうにしてた高橋さんが言う。
「は?」
は?
「いや、その…お礼とかちゃんとしてないし…これっきりとかじゃ無くて…その…」
もじもじと指を絡ませながら小さく呟く高橋さん、顔赤いし。
脈アリ?
うわ、ナニコレ嬉しい!
「は…はい、俺もこれっきりじゃ無い方が…いいです」
うお、ナニコレ恥ずかし!
「……えへへ」
顔を上げた高橋さん、くらっときた、はにかむ顔がものすごい萌えた、あなたは本当に年上でしょうか?
* * * * *
ようやく涼しくなり始めた頃、高橋さんの家を出て家に帰っている。
手には弁当のかわりに高橋さんの電話番号のメモ。
さっき家を出る時、しつこく『彼氏いませんから』を連呼されて送り出された。
いくら何でもわかりやすすぎる、俺の気分は高鳴りっぱなしだ。
それにしてもすごい1日だった…っていうか有り得ない。
メモを確認する。
夢じゃない、現実っぽい。
書いていくうちに話の方向性変わってしまいました、でもキャラがなんとなく立ってしまったので投稿してみました、なんか二人の絡み書いてると面白くて。