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村長と彫刻家
その村では、村長の言う事が絶対の真理であり全ての規範だった。
村長が白と言えば、事実黒い物も白くなった。
故に村民は村長を絶対の存在として生活していた。
村長に見捨てられるのは、この村では死と同等だった。
ある時、村で唯一芸術に携わる彫刻家が村長に作品を見せた。
今後どんな作品を作ったらよいか指示を仰ぐ為である。
だが村長はいつもと違っていた。
腹が立っていたのか、何が気にくわなかったのか。
言葉も無しに彼の作品を床に投げつけた。
心を割いて作られた模造の花は、音を立てて砕け散る。
それには彼も驚き、そして腹が立った。
こんな事が許されてなるものか。
以来、彼は彼の考えで動き始めた。
しかし、彼に味方は一人も居ない。
次第に彼は村から孤立し、村から出ることも叶わず死んでいった。
彼を弔う者はなく、やがて彼は静かに土へとかえった。
村の人々は彼を忘れていく。
ただ、毎年。
冬に咲く不思議な花に、感嘆を漏らし続けている。




