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そんなに恐れるものじゃない、と
暗い部屋の中、少年は目を覚ました。
酷く暗いその部屋の中、少年の目に映るのはきっと彼の鼻の頭くらいだろう。
だいぶ長い間眠っていた少年はゆっくりと瞬きをすると、ひっ、と鋭く息を飲んだ。
そうして次は所在無げに、何かを探すかのように、四方を黒く塗りつぶされている空間に手を彷徨わせる。
まず足場を確認するように床に手を這わせ
そのまま手を滑らせ次は壁
それから盲人のように空中で手が舞う。
生まれたての小鹿の様に、おぼつかない足取りで室内を廻る。
それを何度繰り返しただろう。
やがて少年は大声で泣き叫んだ。
疲れると床と壁に体をゆだね静かになる。
後はその繰り返しだった。
最初からそれを見ていた私は、私の中心がきつく締めあげられるのを感じた。
出口は此処なのに。
けれど少年にそれを伝えるのは不可能に近かった。
錯乱した少年の耳はあまり意味をなしていなかった。
何より私は、少年を導く体も、諭すための声も
持ってはいなかった。




