灰色
空は灰色だった。
雲一つなく、充分な明るさもあるのに、その空は灰色だった。
そこを悠々と飛ぶのは真黒なカラスと真白なハトだった。
いつでも風は凪いでいるのに彼等は羽ばたきも少なく自由に飛んでいた。
僕は灰色の大地からそれをうらやましい思いで眺めている。
ある日、僕はふと気づいた。
彼等はいつも僕の上を飛んでいくが、地に降りた所は見た事がない。
いつだって手に届きそうなほど近くを、かろうじて確認できる程遠くを、空を裂くように飛んでいくのに。
思いついたら止まる事はできなかった。
僕はまず、真黒なカラスを追いかけた。
奴はまるで僕に追いかけられたがっているように早くも遅くもなく飛んでいく。
朝も昼も夜も空は灰色だから、どれくらい追いかけたかはわからない。
ふと、カラスは旋回し高度を下げ始めた。
それを見て僕の心臓はズズッと下に下がったようだった。
僕は気合いを入れて心臓を元に戻すと、足に再び力を込めた。
付いたのは真白な大地。
そこにカラスは立っていた。
白い大地にふる光も辺りとは違った色をしていた。
僕は一歩もそこに踏み込めなかった。
そして気が付いた。
ああ、真白なハトはカラスと同じように真黒な大地と彼の光を持っているのだ。
空と大地と境のないこの灰色の世界で、彼等は彼等を持っているのだ。
僕はどうだろう。
振り返ると景色は何処までも同じで灰色だった。
何処で彼等を眺めていたのかすらわからない。
もう帰れない。
そのとき、真黒なカラスが一声鳴き、そして飛び去った。
そうか、そうだね、ありがとう。
僕は一歩を踏み出した。




