6.家へ戻る
「今日は、とりあえず帰る?家に。親御さんも心配しているだろうし。」
優子さんの声が聞こえた。僕は、軽く首を縦にふった。
「とりあえずね、学校の先生と親には連絡とれているから。」
優子さんがこのあとなにか言ったような気はしたが、聞き取れなかった。1日ほどの出来事だったが、僕には、一週間、いや、一ヶ月のような気がした。
やっと、家に帰る事ができる…正直、それだけだった。
家に帰る途中、先生に会った。先生は会うなり、
「秋人。おまえは、本当に望んでるのか、戦いを?」
僕に話し掛ける先生の目は、怒っていた。ただ、僕がおびえている表情が気になったらしく、表情を穏やかに変えて、そしてゆっくりと話し始めた。
「確かにな、確かに私は…我慢も大切だって言ってきた。おまえは勉強がからっきしだけど、私たちの前で聞き分けのいい子だ。けどな」
先生は、また僕の肩を強く握って
「我慢しちゃいけない事もあるんだぞ?もし自分の理念に反して権力だけでかり出されそうになっているなら、俺の所に来い。身を挺して守ってやるさ。教師とし…いや、ひとりのこの国の大人としてな。」
そういうと、先生は、学校の方に走っていった。
「聞いたぜ。」
聞き覚えのある声がする。びっくりして、後ろをむくと、優助がいた。いつも冗談ばかり言っている友達のひとりの優助だ。
「機密事項だって先生が話しているところを聞いちゃったよ。戦争要員に駆り出されたってな。言ってた洒落のまんまになってしまった訳だ。」
洒落を言っているつもりのようだったが、涙目だった。
「正直おまえがどんな気持ちで了承したかなんて知らないよ。でも、僕にはどう君を多分止められないんだろうな。一つだけお願いだ。…死ぬな…絶対。」
優助は、そう行って去った。いつの間にか家についた。
「おかえり…」
母は、やっぱり悲しそうな顔をしていた。なにか家中が暗かった。そりゃそうだ。
自分の子供が戦争に駆り出されるのだから。第二次世界大戦の時のように「お国のために」とかいっているような時代でもないのだから。
「僕、死にたくない…」
なにかやりきれない母の表情が目に入る。あたりまでだ。僕はついさっきそんな言葉を吐いてしまったことを悔いた。
「でも、誰かが死んでいくのも見たくない。」
僕は、一度、深呼吸してから、言葉をつづけた。
「約束…。絶対、死んだりしないから……約束だから…」
今の状態でも、悲しんでくれている人がいる。だから、これ以上その人達を悲しませたりはできない。だから、死んだらだめなんだ。そう自分に言い聞かせた。