4.権利と義務?
聞けば聞くほど、それはまぎれもなく「人柱」である。納得できる訳もないし、理解できるようなものでもない。…と思う。だから、嘘と言って欲しかった。夢ならここで覚めて欲しいと思った。でも、そうではなかった。本当に僕は、どうすればいいんだろうか。
「ただ…」
首相が、一度躊躇して言葉を吐き出した。
「憲法上では、徴兵ができない事になっている。自衛隊員として、雇うのも手だが、なにしろ学生だ。基本的に、おまえが判断する事になる。」
そう間違えなく聞こえた。僕はすこし安心した。それを確認してか、間をおいて話を続けた。
「ただし、それは建前の上の話しだ。憲法なんてのは解釈次第でどうにでも出来る。公共の利益を傘にして、無理矢理に乗せる事もできない事はない。ただ、それは、私はするつもりは無い。したくないんだ。すべて君が判断するんだ。」
中学生の僕が判断するにはあまりにも経験が少なく、とても残酷な話に思えた。ただ、同時に抵抗してもどうにもならないように思えた。その言葉に対する僕の回答は、こんな言葉だった。
「それが運命なら…運命に従います。但し、僕からあなたに条件を出します。飲まなければ拒否する事もありえると思ってください。」
そう聞いた五泉首相は、軽くうなづいた。それを確認した僕は、話しをつづけた。
「今の戦争の状況をすべて隠さずに国内に公開してください。それが、それだけが条件です。」
五泉首相は考えている様子だった。少したってから、
「わかった。その条件、のもう。」
と言った。部屋の中がざわめいた。当然だ。今まで隠していたことと、それを隠していたことがばれた時の反発がどうなるかわからず「無謀」だからだ。
―もちろん、それを守ってくれると言う確約はない。
ただ、不安だらけの僕にとっては、信用するだけの価値があるものだと思えた。
「戦う時には、こいつは君だ。後方支援はできるかもしれないが直接手を出す事はおそらくできない。いつそういう事態になるか分からない。いつでも呼び出せるように腕時計型無線機を渡しておく。」
自分が選んだ選択肢である。ただ、その選択肢で退路を絶ってしまったように思えた。たぶん後戻りはできないだろう。死んでしまうかもしれない。
…素直に言うと、「どうにでもなれ!」って感じだった。