1.物語は思いがけない所から…
僕は、その夜考えた。本の中の世界、ドラマの中の世界は決まった一直線の中にある。主人公であれ、脇役の一人であれ…だ。一見、自分の意思で選択しているようでも、それは作者によって決められた道で。
―だからこそ、その事を主人公たちが知ったとき、どう思うだろう。
(うーん。バレンタインの夜に、そんなこと考える僕はって、疲れてるのかなぁ。)
その答えは出ないまま、僕は眠りについた。…いや、布団に潜ったというのが正解なのかもしれない。ただ、僕は知らなかった。こらからその「答え」が自分の身に起こる事も、そのストーリーの中の主人公だという事すらも。
「秋人!朝よ!起きなさい!学校に遅れるわよ!」
僕の眠い体を母がゆっくりとゆする。まだ眠いのに。結局、一晩中その答えを探していたのだ。それでもなんとか眠気がやってきた頃、…つまりはこの状態である。そして、また同じような一日が始まる。たぶん。
「わかってるよぉ。すぐに台所にいくから。」
とは言っても、有言不実行な正確は肉親である母親が一番理解していた。当然、反論が返ってくるのである。
「そこを改めないとあんた、進学も就職もできないわよ!」
正直、そこは痛いほど実感している。毎度、そこでカチンとくるのだが、まだ眠気が覚めないのか、そこまで頭が回らない。寝起きのコーヒーを飲みに台所に向かった。
台所に着くと、母がコーヒーメーカーから、コーヒーを注いでくれた。僕はシュガーの容器を空けて、砂糖をそのコーヒーの中に5個入れた。最後の1個を入れた所で、それに母が気づき、
「あ、その砂糖、普通の砂糖より糖度高いわよ。」
と言った。でも、もう遅い。入れなおすというのも勿体無いと感じたので、そのまま飲む。眠気覚ましにもなりそうもない、砂糖を入れすぎで甘いコーヒーを飲みながら、新聞に目を通した。そして、新聞の一面の見出しが目に入った。
―地球外生命体SR9781により、地球侵略。日本政府自衛隊の増強図る(特殊戦闘部門の発足か?)
なにか新聞と漫画を読み間違えたような気分であった。でも、どうやらいつも読んでいる新聞に間違いないようだ。
だとすれば、年に一回のあの日という可能性もある。でも、今日はエイプリルフールではないはずだ。食卓にのっている電波時計で日付を確認する。やっぱり2月だ……
「お母さん、今日は2月15日だよね?」
正直な疑問である。でも、母はその記事を見ていないのか、秋人の疑問に対して、不思議な表情で返す。
「そうよ。なに馬鹿いってんの、そんな事カレンダー見ればわかるでしょ?」
確かに、うちでとっている新聞は、ネットの中では、ちょっと思想が偏った新聞だとは言われている新聞ではあるのだけど、それでも、全く存在しない事実の事については書かないし、仮にも報道組織だ。信用を揺るがすような大嘘は書かない…はずだ。
それでも、半信半疑でテレビの朝のニュースをつけてみる。
…テレビもこのニュースでもちきりだった。
という事は、おそらく嘘ではない。…と思う。でも、いったい…
「母さん、これどういう意味だろう?」
母も答えられる訳がなかった。でも、確実になにかが始まっていた。私たちの知らないところで。
―新たな謎を抱えたまま、一日が始まった。いつもとは違う一日が。