必死のダンス!?
──ステージ。
名前を呼ばれる。
一人ずつ、ランウェイを歩いていく。
恥ずかしそうに笑う子。
余裕のあるポーズを決める子。
「エントリーナンバー7番、どうぞ!」
呼ばれた瞬間、足が前に出た。
ライトが眩しい。
スカートが揺れる。
「かわいいー!」
「誰!?」「推せる!」
歓声が刺さる。
「男だろ?」
「キモくね?」
混ざる声。
全部、聞こえている。
――それでも。
一歩、また一歩。
ランウェイの先で立ち止まる。
口角を上げる。
これは俺だ。
俺が選んだ姿だ。
「今年は特別企画!アピールタイムを行いまーす!」
ざわめき。
出場者たちが固まる。
音楽が流れ出す。
スポットライト。
観客のざわめき。
逃げ場はない。
……やるしかない。
ステージの前に出る。
足を動かす。
リズムなんて取れていない。
足がもつれる。
腕もぎこちない。
でも――
スカートが揺れる。
ウィッグが跳ねる。
視線が集まる。
最初はまばらだった観客が、前に寄ってくる。
スマホの光。
フラッシュ。
「何あの子、必死すぎ」
「でも、かわいい!」
息が上がる。
頭が真っ白になる。
それでも、止まらない。
止まりたくない。
――見てほしい。
気づけば、中心にいた。
音楽が止まる。
静寂。
「……もう、審査の必要ある?
みんなどう思う?」
MCが笑う。
マイクを観客に向ける。
「ありませーん!!」
爆発する声。
誰かに背中を押される。
ステージ中央。
光が、全部集まる。
「優勝は、エントリーナンバー7番!」
歓声。
耳鳴り。
MCが手を握る。
「お前、やるじゃん」
その一言が、胸に残る。
ここに立ってよかったと、初めて思った。
拍手が広がる。
歓声が大きくなる。
みずきは、少しだけ目を細めた。
まぶしいものを見るみたいに。
それから――
ほんの一瞬だけ、視線を外す。
戻したときには、もう笑っていた。
いつもの顔で。
「人気者じゃん」
軽く、そう言う。
隣にいた誰かが笑って、同意する。
でも。
その言葉は、誰にも届かないくらい小さかった。
みずきは、その場から動かなかった。
ただ。
拍手もしないまま、立っていた。
ライトが少し落ちる。
ざわめきが、現実に戻ってくる。
「……行こ」
誰かに声をかけられたみずきは、
一瞬だけステージを見たあと、
「うん」
とだけ答えた。
背を向ける。
もう一度、振り返ることはなかった。
──文化祭のあと。
照明が落ちる。
熱気だけが残る。
まだ、体の奥が熱い。
掃除用具を運ぶ手は動いているのに、
意識はどこか浮いていた。
そのとき。
みずきの姿が見えた。
隣には、MCの男。
肩に回された腕。
自然に寄り添う距離。
目が離せない。
自分の腕を見る。
細い。軽い。
この身体は、自分で選んだ。
そのはずなのに。
胸の奥で、何かが音もなく崩れる。
「はるたくん!」
振り向く。
みずきが駆け寄ってくる。
「今日ありがとう。すごかったよ」
笑っている。
でも、その笑顔が少し遠い。
「もう、アイドルだったね」
優しい言葉。
――なのに。
「じゃあ私、打ち上げ行ってくるね」
手を振る。
そのまま、離れていく。
追えない。
足が動かない。
行けば、まだ繋がっていられたかもしれない。
それでも。
動けない。
誰かに見られることは、もう怖くない。
でも――
置いていかれるのは、怖い。
帰り道。
「今日の子、誰だったんだろ」
「めっちゃ可愛かったよな」
「動画、もう回ってるらしい」
その“美少女”は、俺だ。
でも。
それだけだ。
風が吹く。
もうスカートは履いていないのに、
何かが、まだ揺れていた。




