学園祭で見つけた自分の姿
カクヨムで掲載したものです。
変身願望を持つ人に送る青春ストーリーです。
動画が拡散された。
『学園祭のアイドルがマジで美少女な件』
コメントは伸び続け、再生数も止まらない。
画面の中で笑っている“美少女”は――俺だ。
スカート。ウィッグ。軽く跳ねる足取り。
誰にも言えなかった。
でも――見てほしかった。
変わりたいと思ったのは、俺自身だった。
──学園祭の少し前。
みずきは、誰にでも気さくに話しかける。
特別に美人というわけじゃない。でも、場の空気が柔らぐ。
「はるたくん、これ手伝ってよー」
準備でバタつく教室の中、何度も声をかけられる。
そのたびに、少しだけ胸がざわついた。
友達以上になるには、何かが足りない。
きっかけとか、理由とか――そういうものが。
俺は、自分の見た目に自信があるタイプじゃない。
マスクを外せなかった頃の癖が、まだ残っている。
無意識に口元に触れて、少しだけ手を下ろす。
今はもう、外しているのに。
クラスの男子に「子猫ちゃん」と呼ばれる。
笑って流す。けど、悪い気はしない。
この身体は、俺が選んで、作ったものだ。
みずきが笑うたび、目を逸らしたくなる。
見てほしいのに、見られるのが怖い。
ある放課後、みずきが俺の席の横に立った。
「私、男の人ってちょっと苦手でさ」
窓の光が、髪に落ちる。
声は少し低くて、真面目だった。
「なんか、ゴツゴツしてて怖いっていうか…」
俺は何も言わない。
「でも、はるたくんは違う」
一拍、間があった。
「優しい感じがする。話しやすいし…空気が柔らかいっていうか」
息を飲む。
目が合う。逸らせない。
──学祭当日。
頼まれてはいない。
でも、みずきの近くにいたくて、手伝っていた。
そのとき。
「はるたくん!」
駆け寄ってくる足音。焦った顔。
「ミスコンの子が一人来れなくなって…代わり、お願いできない?」
心臓が跳ねる。
「無理だって。衣装も――」
「私がなんとかする!」
食い気味に言って、少しだけ息を整える。
「この出し物、成功させたいの」
その目は、真っ直ぐだった。
「それに…はるたくん、他の男の子と違う魅力あると思う」
逃げ道はいくらでも思いつく。
でも、足が動かない。
心臓の音だけがやけに大きい。
――見てほしい。
誰に、とは言えないけど。
「……俺、やるよ」
みずきの目が見開かれる。
そのあと、少しだけ笑った。
──衣装室。
鏡が光を跳ね返して、少し眩しい。
ウィッグを被せられ、リボンを結ばれる。
頬に触れる指先がくすぐったい。
「え、かわいい…」
小さな声が落ちる。
鏡を見る。
そこにいるのは、知らない誰かじゃない。
頬のライン。目元。揺れるスカート。
全部、繋がっている。
これは――俺だ。
誰かの真似じゃない。
見せるためだけでもない。
俺が選んだ、俺の形。
みずきが駆け込んでくる。
足を止めて、じっと見る。
「……はるたくん、だよね?」
頷く。
みずきの視線が、ゆっくり動く。
ウィッグ、リボン、頬、目元。
ちゃんと見られている。
“かわいい”とは少し違う。
選んだ自分を、見てもらっている。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。




