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サバイバルの鱗片

追憶(ついおく)(ふけ)っているといつの間にか昼休みになっていた。朝に早起きして作った自信作を鞄から取り出す。


「ハミちゃんここいい?」


クラスの人気者ハミちゃんの席のところまで自分の椅子を持って行き、お弁当を広げる。話題も自然に広がっていく。


「瀬川さん、最近お弁当すごく美味しそうですよね」


「そお?自分で作ることにしたんだよね」


そのことを告げると、周りにいる女子からの感嘆(かんたん)の声が上がる。

この瞬間がたまらなく気持ちいい。この感覚を味わう為だけに、朝早起きしてると言っても過言ではない。


「瀬川ちゃんってそんなに女子力高かったんだ」


背後から声がかけられる。声色(こわいろ)的にななりんだ。このグループに混ざりに来たんだな。

予想通り、ななりんの手にはお弁当箱が下げてある。お弁当といえば、最近ななりんのお弁当は、誰が作っているのだろう。今まではウチが作ってやっていたが、シャッフルされたらそうも行かないだろう。


ななりんのお弁当を覗いてみると、お弁当袋の中には、コンビニなどでよく売られているたらこおにぎりとサンドウィッチが入っていた。


なるほど、まだこの状況に慣れておらずお弁当の用意どころではないのか、はたまた料理がそもそも苦手な人物なのか。


仕掛けてみるのもいいかもしれない。

仕掛けると言っても世間話にすぎないが。


「ななりんのお弁当は誰が作ってたの?お父さん?」


ななりんの首がコクンと縦に振られる。


「そっか、お父さん最近忙しいのかな?」


「多分…」


多分か、そもそも入れ替わった後仕事はどうしているんだ。

だが今自分がなんの問題もなく学生をやれているのと同じように、やろうと思えばどうでもなるものなのかもしれないな。大した仕事をしていたわけでもないから意外と上手くできるのかもしれない。


その後の会話は遂に三週間ごとなった修学旅行の話やら、その前にある期末テストなんかの話で盛り上がった。それにしても修学旅行先が北海道だとは、近頃なかなか旅行になんて行けてなかったから正直、興奮度で言ったら他の高校生並みか高校生以上だろう。


午後の授業も難なくこなし、下校の時刻となった。


誰よりも一足早く学校から出て、まだまだ人が少ない帰り道を歩いて帰る。

というのも自分はまだ自分の能力に慣れていない。そこで、放課後に人気のない場所に出向いてはどんなことができるのか研究をしなければならないのだ。

個人的に気に入っている言葉リストに「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉が入っている。大方ウチの考えと一致しているこの言葉を知った時は感動したものだ。


それにしても遅い。遅すぎる。


もう四分近くはここで立っている。なんなんだこの信号は、車なんて全く走ってないのに、赤信号からずっと変わらない。壊れているのか?寒い。長い。暗い。


下校の時刻は四時ごろ、こんな時間帯に帰れるなんてウチが前に働いていたところよりも段違いにホワイトだ。だが季節的な関係で空はもう暗くなり始めている。


「空もう暗いね」


後ろから追いついてきたななりんが話しかけてくる。

どうも瀬川の元の中身はななりんとの関わりが深いようだ。ことあるごとに話しかけてくる。

娘にきちんと友達ができていたことには安心するが、まだ瀬川という人物がわかっていない身からすると、いつ中身が違うとバレるかわからなく危なかっしくてやってられない。


「ボタン、押さないの?」


ボタン?


ふっふふははっは、そうか…ボタン式か…どうりで。


「ななりんのこと待ってたの。」


「そっかーやっぱ瀬川ちゃんやっさしー、最近冷たかったから何かあったんじゃないかって心配してたんだけど、そういう優しいところは変わらないね。」


「ななりんそんなこと思ってたのー?確かにドタバタしてて大変だけど、ななりんのことだーいすきだよ♡」


誰かウチを殺してくれ。何が悲しくていい歳こいた女子高生がだーいすき♡とか言わなきゃならないんだ。


信号が青に変わる。ボタンを押した途端すぐ色が変わった。

よく考えると、昨日までは確かに複数人で信号まちをしていた気がする。その中の誰かがボタンを押していてくれたのだろう。


音が聞こえる。


車の走る音が、それもかなりスピードを出している音だ。音が段々大きくなるのを感じる。

嫌な予感がする。まだななりんが横断歩道を渡りきれてない。

いやまさかそんなベタな。

いや待て、ウチは今異能力デスゲームに参加しているのか。そうか、こういうことも全然あり得るのか。


そうか。


かろうじて視線を向けることはできたが想定通りの最悪な光景にしか見えない。

ハンドルを思いっきり切ってこちらに突っ込んでこようとする一台の車。その距離およそ10m時間にしたら衝突まで2秒ってとこだろう。運転席にはかなり歳のいってそうなおじいちゃん。こちらに突っ込んでくる車に対して腰が抜けてしまったのか恐怖で地面にへたり込む女子高生。そのすぐ後ろにウチが突っ立っている。


少々荒っぽくしてしまうが命を落とすよりはいいだろう。


朝のニュースを眺めながら朝食を食る。

次のニュースです。昨日午後四時半過ぎ、竹町第三高校生徒が下校中、車との衝突事故が発生。大きな事故になりましたが、幸いにもいずれも軽傷です。乗っていたのは八十二歳男性、、、


「おかーさんそこのお醤油とって。」


醤油の瓶を受け取ろうと手を伸ばすと少しだけ焦げた制服がカチカチに固まり肌をチクチクと突き刺す。

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