第九話 能力査定と『銀の杖』の正体
翌朝。
俺は、朝食を済ませてすぐに斡旋所へと向かった。
青いカードに表示されたステータスと、ユニークスキル【知識統合】の衝撃で、ほとんど眠れなかったが、気持ちは高揚していた。
斡旋所は朝早くから活気に満ちており、すでに多くのハンターやクエスト希望者で賑わっていた。
俺は「REGISTER / PRIVATE」の窓口へ直行した。
そこには、銀髪のアリスが昨日のフリルの制服ではなく、黒いシンプルな制服に身を包み、書類の山に囲まれて座っていた。
「来たわね。ユウ」
アリスは書類から目を離さず、俺の名前を呼んだ。彼女が俺の名前を知っていることに、身分保証の手続きが完了しているのを感じた。
「アリスさん、ありがとうございます。昨日の夜、宿に泊まることができました」
「いいわ。さあ、時間がない。能力査定を始めるわよ。私がこの施設の責任者代理だから、手続きは私が担当する」
アリスは一つ書類を片付け、真剣な目つきで俺を見た。
「まず、ハンター登録には二つの査定が必要。一つは、身体能力。もう一つは、**精神能力**よ」
「精神能力、ですか?」
「ええ。精神能力は、この世界のエネルギーである『マナ』への適性を見るためのもの。あなたの『魔力(MAG)』がどれだけ機能するかを測るわ」
アリスは部屋の隅の、壁に立てかけてあった黒いパネルを指差した。
「あれに両手を当ててみて」
パネルはひんやりと冷たく、指を当てると青い光がパネル全体を走った。
アリスは手元の小さな機械を操作し、俺に向かって言った。
「集中して。あなたの身体と精神が持つ、最も強いエネルギーをパネルに流し込むイメージよ」
言われた通りに集中する。元の世界で身につけたことのない『マナ』や『エネルギー』という概念に戸惑いながらも、俺は【知識統合】で得た情報を頼りに、自分の内に秘められた力を探った。
青いカードに示された通り、俺の魔力(MAG)は『1』。ほとんどゼロに等しい。
(魔法は使えない。なら、俺が持つ一番強い力は……)
俺が一番自信があるのは、情報処理能力だ。知力(INT)の高さ。
昨夜、青いカードに情報が流れ込んできた、あの感覚を再現しようと試みる。
——その時、パネルの中の青い光が、一瞬、強く点滅した。
「……! 何も変化がない?」
アリスは目を細め、機械を覗き込んだ。
「おかしいわね。あなたのマナ適性は**『E-』**。通常、E-ランクだと、パネルにわずかでも赤い光が灯るはずなのに、全く反応がない」
「やっぱり、俺には魔力がないんでしょうか……」
「いいえ。数値はゼロじゃない。ただ……マナじゃなくて、別の何かが測定を邪魔している。姉のメモにもあったわ。『転移者の中には、この世界の物理法則と異なるエネルギーを持つ者がいる』って」
アリスは考え込んだ後、再び顔を上げた。
「では、身体能力査定へ移るわ。あなたの**筋力(STR)と敏捷(AGI)**の数値を、この世界の平均と比較する。向こうの空いているスペースへ行って」
身体能力の査定は、拍子抜けするほど簡単だった。
指定された場所で、全力疾走、ジャンプ、そして握力測定。
結果は、俺が予測した通りだった。
「筋力(STR)は平均的な市民レベル。敏捷(AGI)も平凡ね」
アリスは書類にサラサラと記入した。
「結論として、ユウ。あなたは現時点では、この世界におけるハンターとしては**最低ランクのE-**よ。身体能力に優れず、マナ適性もほぼない」
厳しい宣告だったが、青いカードで確認済みだったので、冷静に受け止められた。
「わかりました。では、どんなクエストが受けられるんでしょうか?」
「通常なら、街の雑用や配達のみ。でも、あなたは特別よ」
アリスはそう言って、リュックから銀色の棒を取り出した。
「この棒。昨日、あなたのアイテムを研究していたら、あることに気づいたの」
アリスは銀色の棒を両手で丁寧に握った。
「この棒は、この世界の魔力を流しても何も起きない。けれど、あなたが持つ、あの青いカードのエネルギーを流したら……」
アリスは、青いカードを銀色の棒の先端に軽く触れさせた。
瞬間、銀色の棒の先端が、鈍い青い光を放った。
「これは……!」
「やはりね。この棒は、この世界のマナではなく、あなたの転移者のエネルギーによって機能する道具よ。姉のメモには、『異世界の杖』の可能性が示唆されていたけれど……これは、むしろ**『銀の杖』**と呼ぶべきね」
アリスは慎重に、銀の杖を俺に返した。
「つまり、あなたは魔法を使えないけれど、この杖を介して、あなたの知力(INT)と知識統合スキルを、この世界の物理法則に干渉させる武器にできるかもしれない」
アリスは立ち上がり、黒い制服の胸ポケットから、別の羊皮紙を取り出した。
「この杖の真価が判明するまでは、あなたには杖のエネルギーを管理するクエストを重点的にやってもらう。そして、あなたにしかできない、一つだけ特別なクエストを斡旋するわ」
「特別なクエスト?」
「ええ。あなたが街で唯一の転移者となった今、あなたには、姉が消えた謎を追うという、最重要クエストに協力してもらう」
アリスは俺の目を見つめた。
「その第一歩として、今夜、南シティを離れてもらうわ」
「えっ、今夜?」
「ええ。目標は、オムネットの首都、王都よ」




