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コルク栓を抜いたら異世界に飛ばされそして謎に日本語と英語で会話してる異世界で生きる俺って一体  作者: みなと劉


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第七話 銀髪の少女、レセプショニストの過去

 鉄の扉の向こうは、質素だが整然とした小部屋だった。

 壁一面が書類棚になっており、中央には大きな木製のテーブルと、座り心地の良さそうな椅子が二脚置かれている。

 銀髪の少女は、俺たちが中へ入るとすぐに扉を閉め、再び施錠した。その動作は迅速で、他者に聞かれたくないという意思が明確に感じられた。

「レンシオ。あなたは外で待ってて」

 少女は冷淡な視線をレンシオに向けた。

 レンシオは一瞬ムッとした顔をしたが、すぐに肩をすくめた。

「オフコース。ユー、頑張れヨ」

 彼はそう言って、部屋の隅で壁にもたれかかった。異世界アイテムの件は気になるだろうが、空気を読んだようだ。

 少女は俺に向き直り、テーブルの椅子に座るよう促した。彼女自身も対面に座る。

「改めて自己紹介するわ。私の名前はアリス。このオムネット・サウスシティ斡旋所の臨時レセプショニストよ」

 彼女は冷たい目で俺を見つめた。

「俺は……」

「名前は後でいい。まず、聞かせて。あなたがどこから来たのか、そして何を持ってきたのか」

 アリスの声は低く、感情を押し殺しているようだった。

 俺は正直に、コルクを抜いた瞬間の光、噴水への落下、そして言語の違和感から現在の状況を理解したことまで、一気に話した。

 アリスは微動だにせず、最後まで話を聞いた。そして、一つだけ質問を投げかけた。

「……あなたが、噴水に落ちてきたのは、正確にいつ?」

「えーっと、今日の、夕方前くらいです」

 アリスは顎に手を当てて考え込む。

「二十年ぶり……まさか、本当に」

 彼女の視線が、レンシオが背負うリュックに向けられた。

「そのリュック。中身を見せて」

 レンシオは無言でリュックをテーブルに置き、チャックを開けた。

 銀色の棒、透明な小瓶、そして青く光るカード。三つのアイテムが、薄暗い部屋の中で異彩を放った。

 アリスは青いカードを慎重に手に取り、裏表を検分した。

「これは……確かに規格外の素材ね。オムネットの鑑定士でも、これのルーツは特定できないはずだわ」

 彼女はカードをテーブルに置き、次に小瓶を、そして銀色の棒を手に取った。

「あなた……前に店主が言っていた二十年前に来た女の子について、何か知っているんですか?」

 俺の問いに、アリスは顔を上げた。その瞳に、一瞬だけ強い感情の揺らぎが見えた。

「知っている、どころじゃないわ」

 アリスは深く息を吐いた。

「二十年前にこの街の噴水に落ちてきた女の子。その子こそが、私の実の姉よ」

「え……!」

 予想外の事実に、俺は思わず言葉を失った。レンシオも驚きのあまり、壁から背中を離して姿勢を正している。

「あの時、姉は私と同じくらいの年で、あなたと同じように、突然この世界に現れた。言葉は、この街のピュア・ジャパン。今のイーフォン語とは違う、過去の日本の言語だった」

「じゃあ……アリスさんは、そのお姉さんと一緒に……」

「違う。姉は、元の世界では日本人だった。私は、このオムネットの街で生まれた。でも、姉は私に、元の世界で使っていた言葉、文化、そして歴史を教えてくれた」

 アリスは、どこか遠い目をした。

「姉は、豊臣重信なんて知らない。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康……彼女が知る歴史には、この国の紙幣に描かれた武将は存在しないのよ」

(なるほど……彼女の使う「ピュア・ジャパン」は、姉から教わった、俺たちの世界の日本語なのか)

「でも、そのお姉さんは……消えたって……」

「ええ。ある日、文字通り、痕跡もなく消えたわ」

 アリスは銀色の棒を握りしめた。

「姉は、元の世界に戻る方法をずっと探していた。彼女は、この世界に転移した時のことを詳細に記録し、研究していたわ。特に、あなたたちが持ってきたような異世界アイテムに強い関心を持っていた」

 アリスは静かにカードを俺の前に押しやった。

「いい? このカードは、姉が残したメモによれば、ただのカードじゃない。元の世界の記憶や、情報がデータ化されたものかもしれない。そして、この銀の棒と小瓶は、あなたのエネルギーを補う、もしくは元の世界へ戻るための鍵になりうる可能性がある」

 俺の脳裏に、店主の言葉が蘇る。

「そういやイーフォンになる前の、二十年かそこら前にもな……《異世界から来た》って女の子がいたなぁ」

 二十年前。それはアリスの姉が来た時期だ。

「アリスさん、俺、服を買う時に豊臣重信の紙幣を出したんです。そうしたら、店主が**『お宝メタル』**だ、って。三百五十コルドで買い取ってくれました」

 アリスの目が見開かれた。

「豊臣重信のメタルペーパー……!しかも『ゾロ・スペシャル』!?……それを、あなたはもう交換したのね?」

「はい。服代二コルド払って、残り三百四十八コルドです」

 アリスは頭を抱えた。

「なんてことを……!その紙幣は、この街の通貨価値じゃない。あれは、オムネット王族のコレクターが喉から手が出るほど欲しがる『歴史的アイテム』よ! 姉のメモにも、転移者の中には、元の世界からこの世界の『歴史的価値のある紙幣』を持ち込む者もいる、とあったわ。それを……」

 俺は冷や汗をかいた。どうやら、俺は最初の一歩でとんでもない高値のものを手放してしまったらしい。

「でも、これで大金を手に入れたんです。今はまず、この世界で生活を立て直さないと」

 アリスは顔を上げ、真剣な眼差しを俺に向けた。

「いいわ。私が、あなたのこの世界での生活をサポートする。代わりに、あなたには協力してもらいたいことがある」

「協力?」

「ええ。あなたの身の安全と、元の世界に戻るという目的のため、そして姉が残した謎を解くために」

 アリスは立ち上がり、背後の書類棚から、古びた羊皮紙のようなものを取り出した。

「まずは身分保証と宿の確保。そして、すぐにでもハンター登録をしなさい」

「ハンター登録?」

「転移者には、元の世界にはない特異な能力が備わっていることが多い。姉もそうだった。あなたの能力が何であれ、それはこの世界で生き抜くための武器よ」

 アリスは羊皮紙をテーブルに広げた。そこには、複雑な紋様と、いくつかの記入欄があった。

「私があなたの身元を引き受ける。あなたは、今夜この街に滞在し、明日、この斡旋所で正式な能力査定を受けるのよ」

 俺の心臓は再び高鳴った。

 この世界で生きるための、最初の扉が開いた瞬間だった。

「……分かりました。アリスさん、よろしくお願いします」

 俺は立ち上がり、アリスと向かい合った。

 その背後で、ずっと聞き役に徹していたレンシオが、静かに拍手をした。

「グッド・チョイス。ユア、ラッキー・ネ」

 彼は笑っていたが、その顔にはどこか緊張の色が残っていた。

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