第五話 異世界アイテムの鑑定
「ヤバいモン」というレンシオの声は震えていた。
彼の大きな目が、リュックの中の三つの物体を凝視している。
細長い銀色の棒は、表面に微細なパターンが刻まれており、見た目にはただの金属片だ。だが、掌で握るとわずかに温かみを感じた。
小瓶の中の透明な液体は、照明の反射でキラキラと輝き、まるで空気そのものが閉じ込められているようだった。
そして、青く光るカード。
「これ……何ですか? 俺には全く見覚えがないんですが」
リュックは店で買った中古品だ。前の持ち主のものだろうか?
レンシオは慎重に青いカードを指先で持ち上げた。
「……これは、イーフォン製の『プレイヤー・カード』に似てるネ。でもオムネットじゃ見ないデザイン。しかも……この素材、触るとちょっと暖かいヨ」
彼はカードを裏返し、書かれている文字を探したが、そこには何も書かれていない。ただただ青い光を放つだけのカードだった。
「もしかして、これも……二十年前に来た女の子の残したモノ、とか?」
店主の言葉が頭をよぎる。しかし、それにしては状態が良すぎた。
「分からないヨ。でも、街中のアイテムじゃないのはオフコース」
レンシオは続けて、透明な小瓶を手に取った。
「このリキッド……匂いしないネ。でも、ユア触ってみて。少しヒリヒリしない?」
言われるままに小瓶を触ると、確かに指先に微かな電気のような刺激を感じた。
「ヒリヒリします」
「ヤバいヨ。これは『回復ポーション』とか、そういうマジック系のリキッドとは違う。ノー・マジック、ノー・ケミストリー。ナニカ、別のエネルギーを感じるヨ」
俺はふと、ポケットを探った。
風呂に入る前に出しておいた、元の世界から持ってきたものが一つ。
——ワイシャツの胸ポケットに入れていた、ライターだ。
濡れていても、使い捨てのプラスチック製ライターなら形は崩れていない。
それをレンシオに見せると、彼は不思議そうに首を傾げた。
「……ソレ、ナニ?」
「火を起こす道具だよ。俺の国のアイテムだ」
カチッとスイッチを押し込む。
——だが、火はつかなかった。
水濡れで着火石が駄目になったか、それとも。
「……火が、出ない。いや、出す仕組み自体が、この世界で機能しないのか?」
レンシオは興味深そうにライターを覗き込み、そして、リュックの中の「細長い銀色の棒」と見比べた。
「このシルバーのスティック……ユアのライターに似たエネルギーを感じるヨ」
その言葉で、俺の頭の中に電撃が走った。
(もしかして……!)
俺が元の世界で使っていた道具が、この世界に転移した際に、この世界の法則に合わせて変質したんじゃないか?
ライターが、エネルギーの詰まった「銀色の棒」に。
財布に入っていたカード類が「青く光るカード」に。
そしてワインを抜いたことで起きた現象の残滓が「透明な液体」に。
もしそうなら、この三つは、この世界の住人にとっては未知の、文字通り「異世界アイテム」ということになる。
「レンシオさん。これ、すぐにでも換金できる場所ってありますか?」
換金というより、鑑定が必要だ。
「斡旋所のマエだから、鑑定ならジョブ・ネットにあるヨ。ただ、このカードは……」
レンシオは青いカードをちらりと見た。
「プライベートなモノっぽい。もし、ユアのステータス情報だったら……他の人に知られないほうがベターよ」
ごもっともだ。
この世界で、出自不明の「異世界人」だということを知られるのは得策ではない。
「じゃあ、斡旋所に行って、鑑定じゃなくて……」
「オーライ。マスターに会うだけネ。マズは情報収集」
レンシオはリュックのチャックをそっと閉め、背中にかけた。
「服を買ったから、ユーはもうホームレスじゃない。あとはジョブを見つけるだけ」
彼はそう言って、重厚な石造りの扉を指差した。
扉の上には、夜の街の明かりに照らされて、看板が堂々と光っている。
《OMNET JOB-NET Agency》
俺は深く息を吸い込んだ。
(ここからが、この世界での生活の始まりだ)
レンシオに続いて、俺は恐る恐る扉を押し開けた。
扉の向こうからは、人々の話し声と、ガヤガヤとした喧騒が溢れ出てきた。




