第四話 街と“斡旋所”
店主の指を数えながら、俺は受け取った紙幣を財布へしまった。
350コルド受取。
そこから服代二コルド支払い。
——残り348コルド。
(いや、普通に人生変わる額なんだけど……)
財布の中で、見慣れない二種類の紙幣が軽く擦れた。
「ところで、コルドより小さい単位ってあるんですか?」
聞くと、店主は「あー、それな」と言いながら、レジ下から別の束を取り出す。
「これがジルドだ。1ジルド、10ジルド、100ジルド、1000ジルドの紙幣がある」
手渡された紙幣には《Guild》の文字。そして中央には見知らぬ人物。
「この人って……」
「『アーノルド・ティエウス殿下』だ。現王子だよ」
「王子……!」
(アーノルド・ティエウス……ティエウス家が王族ってことか)
店主は軽く指を鳴らす。
「成人したばっかでな。まだ十五のはずだ」
「十五で成人なんですね」
「そうよ。こっちじゃ早いのさ」
なるほど、と頷く。
「じゃあコルド紙幣のこの人物は?」
「それは王様。『ドミニク・ティエウス』陛下だ」
紙幣ひとつにも、この国の構造が透けて見える。
(覚えといたほうがいいな……本当に異世界なんだって実感する)
そう思いながら店主へお礼を言い、青年と一緒に店を出た。
---
◆
店の外はすでに日が傾き始めており、石畳が金色に光っていた。
「ハーイ、ユー。アフター・ショップ、どこ行く?」
「えーっと……まず、この世界って魔物とかは……?」
俺の質問に、青年は「ああー」と頬をかきつつ答える。
「モンス? いるヨ。ケモのネ。だけどここオムネットはシティだから、街中には来ない。うん、ノー・ケモ」
(ケモ……魔物のこと?)
「でも心配なら……斡旋所イクか? ジョブとかクエストとか、モンス情報もあるヨ」
(斡旋所……やっぱギルド的なやつだ!)
「行ってみたいです」
「OK! じゃ、ストリート歩くヨ」
彼の案内で歩き始めると、街並みが否応なく目に飛び込んでくる。
屋根は赤茶色の瓦が多いが、建物の形は日本の古民家でも西洋風でもない。どこかSFっぽいラインもある。通りの端には光るパネルの看板があり、馬車の横にはエンジン音みたいな機械が載っていた。
(魔法と科学……両方あるタイプの世界か?)
ざわめきのある街。料理の匂い。布を売る露店。金属片を叩くカンカンという鍛冶音。
そして——
(人、めちゃくちゃ多いな……)
人種も色々だ。肌色も髪も服装もバラバラ。 耳の長い人、尻尾がある人、袖口から羽根みたいなものが覗いてる人も。
(やっぱ人外も普通にいる世界なんだ……!)
胸がわくわくと高鳴る。
---
◆
「……そういえば、青年さん」
「ネームは“レンシオ”だヨ」
「あ、レンシオさん。ありがとう」
歩きながら、俺はずっと気になっていたことを聞いた。
「さっき店主さんが言ってましたけど……“異世界から来た女の子がいた”って、本当に?」
レンシオは一瞬だけ眉を寄せた後、少し小声で言った。
「うん。トゥエンティ・イヤー・アゴね。
噴水広場に落ちてきた——ってストーリー、似てるヨ」
「……!」
「でも、その子は……街しばらくにいて、ある日いきなり消えちゃったネ。ノー・トレース。
ウワサでは、王都に行ったとか、ケモに襲われたとか……色々あるけど」
胸がざわつく。
(その子、今も生きてるのか?
もしかしたら、会えるのか?)
期待と不安が入り混じる。
「……その子の名前、わかります?」
「ノー。レコード残ってないヨ。異世界の人は、名前発音むずいしネ」
少し落胆しつつも、同じ転移者の存在は大きかった。
---
◆
しばらく歩くと、路地の向こうに大きな建物が見えてきた。
石造りで重厚な扉。上には《OMNET JOB-NET Agency》と書かれた大きな看板。
「あそこ、斡旋所。ジョブとかクエスト、ハンター登録もあるヨ」
「おお……まじでギルドじゃん……!」
胸が高鳴った、その瞬間。
「ん? ユー、そのリュック……さっき店主からもらったやつネ?」
「はい。中古だって言ってましたけど」
「ちょい、オープンしヨ。チェックするネ?」
言われるまま、リュックのチャックを開けた。
その内部を覗いたレンシオの目が、まん丸になる。
「ユー……これ……ヤバいモン入ってるヨ!」
「えっ?」
俺も覗き込んだ。
そこに入っていたのは——
見覚えのある《透明液体の小瓶》と、《細長い銀色の棒》。
……そして見たことのない《青く光るカード》だった。
(……これ、俺の世界の……?
いや、違う。何だこれ……?)
脳裏にざわりと鳥肌が立つ。
「ユー……これは“異世界アイテム”じゃネ……?」
レンシオが息を呑む。
俺の心臓も、強く跳ねた。




