第三話 リユースショップと“お宝メタル”
青年に案内され、広場から三つ角を曲がった先に、小さな店があった。
看板には《RE:USE & CLOTHES》と書かれている。
ガラス戸を開けた瞬間、かすかに油と古布の匂いが混ざったような、落ち着く空気が漂ってきた。
「ヘイ、マスター。ブリング・ユー・ゲスト」
青年が軽く手を上げながら店内へ入る。
「いらっしゃい! どした? ズブっと濡れているジャマイカ」
奥から出てきたのは、腹の出た中年の店主だった。
(……ジャマイカ?)
妙に昭和のオヤジギャグみたいな言い回しが混ざる。
さっきの青年とは違って、どこか日本語寄りの喋り方だ。
「このユー、いきなりスカイからファンテンに落ちてきたから連れてきたヨ」
青年が説明すると、店主が目を丸くした。
「そ、そうか……え? 空から?」
「ええ……まあ……」
どう説明するべきか迷ったその時、店主がぽつりと言った。
「そういやイーフォンになる前の、二十年かそこら前にもな……《異世界から来た》って女の子がいたなぁ」
「えっ!?」
俺の背筋に電流が走る。
まさか、同じような転移者が過去にも?
その勢いで、俺は一気に喋った。
「……実は、コルク栓を抜いたら光が出て……次の瞬間、空の上でした。で、気づいたら噴水に落ちて」
自分でも信じられない話を、息継ぎも忘れて吐き出す。
けれど店主はあっさりと受け止めた。
「なるほどな。そりゃ風邪引くわ。まず奥の風呂入れ。湯、張ってある」
と、バスタオルを肩に放り投げてよこした。
「えっ、いいんですか?」
「いいも悪いも、濡れネズミを店に置いとけんだろ」
そう言われて、素直に風呂場へ案内される。
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◆
「風呂場ひろ……!」
扉を開けた瞬間、思わず声が漏れた。
タイルは青く光り、天井には妙な曲線を描いた照明。
そして壁には——
「なんだこのパネル……テレビ?」
ガラスのような板が張られ、そこに海の映像が流れている。
普通の浴場じゃ見ない光景だ。
背後から店主の声が飛んできた。
「風呂の温度はどうだ? ぬるかったら、そのパネルの+押せ。1℃か2℃上がる」
「だ、大丈夫です!」
(普通に日本語に近い……こういう人もいるのか)
湯が肩まで来た瞬間、身体の強張りが溶けていく。
落下の衝撃も、噴水の冷たさも、ようやく和らいだ。
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◆
風呂から上がり、乾いたタオルで髪を拭いていると、店主が店内から呼んだ。
「おーい、ユーさんよ。服とリュック、一応揃えてみたぞ。中古だが悪かねぇ。……2コルドでどうだ?」
店主の後ろには、無骨だが使いやすそうなリュックと、暖かそうな衣服が並んでいる。
「2コルド……そのくらいなら……」
財布を開き、例の紙幣を取り出した。
《豊臣重信》と印刷された、見たことのないメタル紙幣。
「これ……使えますか?」
店主の目が、一瞬で変わった。
まるでライトが灯ったように輝き出す。
「こ、これは!? 統合以降は発行されなくなった“豊臣重信”のメタル紙幣じゃねえか! しかも……おい待て、通し番号……」
紙幣を裏返し、口を開けた。
「777−999!? お、お宝認定のゾロ・スペシャルだろこれ!!」
「す、凄いんですか?」
「凄いどころじゃねえ! これはな……メタル紙幣コレクターが泣いて買取りたがるランクだ!
もし交換してくれるなら……うーん……三百コルド、いや三百五十まで出せる!」
(……一気に金持ち?)
1コルドが1000〜5000円ぐらいだと仮に思えば——
三百コルドって三十万〜百五十万ぐらいになる?
冷や汗が背中を滑る。
「ど、どうする? 交換するか?」
店主が身を乗り出す。
青年もわくわくした顔で俺を見ている。
「ユー、ラッキー・デイだネ!」
今の俺の財布には、この紙幣が一枚。
服代くらいなら余裕で払える。
だが、価値が高すぎて逆に怖い。
(……本当に交換して大丈夫なのか?)
喉がひりつく。
——この紙幣が、この世界での「生きる力」に変わるのなら。
俺は、ゆっくりと口を開いた。
「……わかりました。交換、お願いします」
店主の顔がぱあっと輝いた。
そして俺は、この世界で最初の「大金」を手に入れた。




