最終話 種族の違う方と夫婦になるのは、大変ですわ!〜でも、幸せだからいいのです〜
部屋に駆け込むと、そのままベッドに倒れ込み、シーツを握り締めて泣き崩れました。
情けないですわ。一国の王を支える妻が、ちょっと空回りをしただけで自室にこもって泣いてしまうなんて。
ガーネット様は、きっと今頃呆れていることでしょう。更に嫌われてしまったかもしれない。今すぐ涙を拭き、無様な姿を見せたことを謝らなければ。
そう思うのに、涙が止まらない。
これじゃあ子供です。本当に情けないですわ。
そんなことを考えていたら、部屋のドアが勢いよく開きました。
「ロゼリーヌ!」
あ、ガーネット様が追いかけてきてくれた。
それを嬉しく思ってしまうわたくしは、やっぱり子供なのでしょう。
ガーネット様は慌てた様子でベッドに座ると、優しくわたくしの背中をさすってくれた。
「ロゼリーヌ。泣かないでおくれ。私が悪かった」
ガーネット様はなにも悪くないですわ。
わたくしが一人で盛り上がり、大失敗をしてしまっただけです。それなのに謝ってくださるなんて、本当に大人な方ですわ。
「いいえ。わたくしが悪いのです。旦那様が甘いものを嫌いなんて知らなかったのです。本当にごめんなさい。わたくしのこと、嫌いにならないでください……」
「ロゼリーヌ……」
ガーネット様はなにかをこらえるようにグッと拳を握り締めると、静かに口を開いた。
「嫌いになんてならないよ。せっかく作ってくれたのにすまないね。私はお菓子もハンカチも本当に嬉しかったのだ。だから、もう泣くのはおやめ。いつものように、元気な笑顔を私に見せてくれ」
「……」
わたくしは涙を拭いて起き上がると、じいっとガーネット様のお顔を見つめた。
それからニッコリと微笑んだ。
無理に笑ったので、変な笑顔になってしまったけれど、ガーネット様は笑ったりしなかった。
それからわたくしを壊れものを扱うようにそっと抱きしめてくれた。
「ロゼリーヌ。結婚二カ月記念のプレゼントありがとう。これからも、私のそばにいておくれ」
そばにいていいと言われ、わたくしの涙腺は崩壊してしまった。ガーネット様の胸に顔を埋めながら、子供のように泣きじゃくったのでした。
※※※※
涙が止まり落ち着いてくると、ガーネット様はわたくしからそっと離れようとした。
わたくしは離すまいと力を込める。
「もう少しこのままがいいです」
「そ、そうかい? だが、私も男なのだ」
「?」
意味が分からずキョトンとガーネット様のお顔を見つめたら、困ったように微笑まれた。
「男はすぐに野獣になるのだ。気を付けなさい」
「意味が分かりませんわ」
「……。ロゼリーヌは十六歳だったね?」
「はい。あと半年で十七歳になります」
「うーん……、半年か。先は長いねぇ」
「?」
会話の意図が読めず、わたくしは首を傾げた。
「すまない。聞かなかったことにしておくれ。それより、もう元気になったようだね。そろそろ夕飯を食べに行こうか」
「嫌です。もっとガーネット様とくっ付いていたいです」
「ロゼリーヌ……。我儘を言わないでおくれ。私は牢屋に入りたくない」
「牢屋? なんのことですか?」
「え?」
ガーネット様は困惑したようにわたくしの顔を覗き込んだ。
「未成年に手を出したら、夫婦と言えど重罪だ。ロゼリーヌも知っているだろう?」
「え? 知りませんわ!」
「え?」
わたくしとガーネット様はビックリして顔を見合わせた。
「わたくし、未成年なのですか?」
「そうだよ。成人と見なされるのは、十七歳になってからだ」
驚きました……。マレル大陸では十六歳から成人なのです。アラクロ大陸では十七歳から成人と見なすのですね。
しかも、十七歳未満に手を出したら、夫婦と言えど重罪になるなんて……。
そこでわたくしはハッとした。
ガーネット様の両腕を掴み、はしたないくらいの大きな声で叫びました。
「じゃあ……! ガーネット様がわたくしを抱いてくださらなかったのは、わたくしが十六歳だからですか!?」
「だ、抱く!?」
「わたくし、毎晩ガーネット様をお待ちしていたのです。なぜ抱いてくださらないのか、いつも悩んでいたのです」
「えぇ!?」
ガーネット様のお顔が真っ赤に染まった。
それから言いづらそうにわたくしから目を逸らし、ぽりぽり頬をかいた。
「今のロゼリーヌを抱いたら、私は死刑だよ」
そ、そうでしたの!?
だからガーネット様は、わたくしに手を出さなかったのね。
じゃあ……じゃあ、ガーネット様はわたくしのことをどう思っているのかしら?
聞いてみたい……。でも、そんなことを聞いては、はしたないですわ。
で、でも! 今更ですわね。今日は恥ずかしいことをたくさん言ってしまいました。
だったらついでに聞いてしまった方が、心が晴れます。
わたくしはゴクリと喉を鳴らすと、ガーネット様のお顔を恐る恐る見上げた。
「では、ガーネット様はわたくしのことをどう思っておいでなのですか? わたくしのこと、好き?」
「えぇ……!?」
ガーネット様のお顔が、さっきより更に赤くなった。
やっぱりガーネット様って照れ屋ですのね。舞踏会のときの反応から、そんな気はしていましたわ。
ですが、逃しませんっ。
ガーネット様の本当の気持ちが知りたいのです!
わたくしはガーネット様の腕を掴むと、じいっとお顔を凝視しながら答えを待ちました。
ガーネット様はダラダラ汗をかいてわたくしから目を逸らしています。ですが、観念したのかギュッと目をつぶり叫びました。
「す、す、す、好きに決まっているだろう!? 好きじゃなきゃ結婚なんかしない!」
き、きゃーーーー!!
好きって言ってくださった!
ガーネット様が、わたくしのことを、好きって言ってくださったーーーー!!
わたくしの脳内で、祝福のファンファーレが鳴り響いた。
わたくしはガーネット様にギュッと抱き付き、思い切り叫んだ。
「わたくしもガーネット様のこと、大好きですわっ」
ここまで読んでくださりありがとうございました。




