第七話 結婚二カ月記念大作戦ですわっ
アラクロ大陸に来て二カ月が経ちました。
依然ガーネット様は、わたくしに指一本触れません。
ここまで来ると、開き直ってきましたわ。
ガーネット様がわたくしを愛してくれないのなら、愛させてやりますわ。
愛人がいたとしても負けません! わたくし、絶対にガーネット様を振り向かせて見せます!
そのために何をすればいいのか考えました。
そこでわたくしは閃いたのです。
題して
『結婚二カ月記念。プレゼントを贈ってより親密になろう大作戦』ですわっ。
プレゼントというのは、誰だって贈られたら嬉しいものです。たとえ好きでない人からでも、心は少し弾むものですわ。
ですからガーネット様になにか気の利いたプレゼントをお渡しして、わたくしに対する好感度を上げようと思うのです。
そんなことで本当に好きになってくださるのか疑問ですが、なにか行動しなければ現状は打破できないと思ったのです。
さぁ、そうと決まればなにをプレゼントするか考えなくては!
まずはハンカチなどどうでしょう? 刺繍をいれたハンカチです。贈り物としては鉄板すぎるかしら?
もう少し気の利いたものを贈りたい。
やっぱり喜ぶのは食べ物ですわね。甘いものなどどうでしょう? わたくしはマレル大陸にいた頃、よく友人からチョコレートをいただいていたわ。甘くて美味しいから一日で一箱食べてしまい、侍女に怒られたことがあったっけ。
「……!」
そうだわ。チョコレートもいいけど、クッキーなどどうでしょう? クッキーなら何度か作ったことがあるし、仕事の休憩時間などに気軽につまめる。
よし。クッキーと刺繍入りのハンカチにしましょう。
ふふ。好きな方へは何を贈ろうか考えるのってとても楽しいですわ。ガーネット様、喜んでくださるといいのですが……。
そんなことを思いながら、わたくしはウキウキとニーナに白のハンカチを用意してもらったのだった。
※※※※
その日の夕方。
仕事から帰宅したガーネット様を、わたくしは玄関で待ち構えていた。
「おかえりなさいませ。旦那様」
「ただいま、ロゼリーヌ。出迎えてくれてありがとう。君の顔を見ると公務の疲れも吹っ飛ぶよ」
「まあ……」
ガーネット様の言葉が嬉しくて、わたくしは飛び付きたい気持ちになりました。
いけないですわ。そんなはしたない姿を見せたらガーネット様に嫌われてしまう。
わたくしは心を落ち着かせてからニッコリと微笑んだ。
「ガーネット様。今日はなんの日かご存知ですか?」
「なんだろう? 誰かの誕生日かい?」
「いいえ。わたくしとガーネット様の結婚二カ月記念です!」
「二カ月記念?」
ガーネット様はキョトンと目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑い始めました。
「あはは! 二カ月記念か! それは素晴らしいね!」
「?」
なにが面白いのか分からず、今度はわたくしがキョトンと目を丸くしてしまいました。
そんなわたくしを、ガーネット様はそれはもう優しい眼差しで見つめている。
「ロゼリーヌは可愛いね」
「?」
なぜ突然可愛いなどと言われたのか分からないけど、とりあえず贈り物を渡さなければ。
わたくしは後ろ手に隠していたプレゼントを、ガーネット様に「どうぞ」と言って手渡した。
プレゼントを手にしたガーネット様は、不思議そうな表情をしている。
「これはなんだい?」
「二カ月記念のプレゼントです」
「そ、そうなのかい? すまない。私はなにも準備をしていない」
「気になさらないで。それよりプレゼントを開けてみてください」
ガーネット様は嬉しそうにラッピングされた袋を開いた。
中からハンカチを取り出す。
「素晴らしい……。これはロゼリーヌが刺繍をしてくれたのかい?」
「はい」
「ありがとう。大切にするよ。――もう一つあるね」
袋をあさり、もう一つのプレゼントを手に取る。
四角形の小さな紙袋だ。紙袋を開けて、中を確認する。
「これは……」
「クッキーです。今日シェフに厨房を借りて作りましたの」
ガーネット様は一瞬顔を引き攣らせた。だが、すぐに満遍の笑みを浮かべた。
「ありがとう。大事に食べるよ」
「今お一つ召し上がってください。上手く焼けているか不安なのです」
「あ、あぁ。いただこう……」
ガーネット様は引き攣った笑みを浮かべながら、クッキーを一枚手にしてパクリと口に運んだ。
「お、美味しいよ……」
美味しいよと言うわりにはあまりにも顔が引き攣っていたので、わたくしは不安になった。
「……。お口に合いませんでしたか?」
「……」
不思議なことに、周りの使用人たちも引き攣った表情を浮かべている。
どうしたのかしら? まさか砂糖とお塩を間違えたのかしら? 不安になってオロオロとしていたら、家令のセバスが控えめにわたくしに話しかけてきた。
「奥様……。実はガーネット様は、甘いものが苦手なのです」
それを聞いていたガーネット様が、セバスをキッと睨み付けた。
「セバス。余計なことは言わなくていい」
「はい。申し訳ございません……」
わたくしは頭の中が真っ暗になってしまった。
ガーネット様の嫌いな食べ物がなにか調べもせずに、わたくしの好みで贈り物をしてしまった……。
ガーネット様、すごく苦しそうなお顔をしている。
わたくしのクッキー……美味しくないのね。
ガーネット様に悪いことをしてしまいました……。
わたくしはシュンとうなだれて、ドレスの裾を握りしめた。
「ごめんなさい……。旦那様……」
「い、いいのだよ! 私の方こそすまない! このクッキー、とても美味しいよ!」
喜んでもらうどころか気を使わせてしまった……。
わたくしは自分の愚かさとガーネット様に対する申し訳なさで、頭がぐちゃぐちゃになってしまった。
気が付いたらポロポロ涙があふれていた。
「本当にごめんなさい!」
情け無さと恥ずかしさで、わたくしはその場を走り去り、自分の部屋に駆け込んだのだった。




