第六話 なぜ? なぜなのですか!?
ニーナに案内されながら食堂に向かうと、すでにガーネット様がお越しになっていて、椅子に座り新聞を読んでいた。
ガーネット様はわたくしに気付くと新聞から顔を上げて、ニコリと微笑んだ。
「おはようロゼリーヌ」
「お、おはようございます! 旦那様」
な、なぜそんなに普通なのですか!?
初夜が失敗に終わったのですよ? なにか一言あってもいいのではないですか!?
そんなことをモヤモヤ考えながらガーネット様の対面に座る。
「ここでの暮らしはどうだい?」
「み、皆さんとても優しくしてくれます」
「そうか。それは良かった。文化が違うので苦労も絶えないと思う。ゆっくり馴染んでいってくれたら嬉しい」
「はい」
や、優しー!!
やっぱり大好きですわ!!
昨夜のことは忘れましょう。
やっぱりガーネット様が寝室に来たとき、わたくしは寝てしまっていたのよ。
だから気を使ってご自分の部屋に戻ったのだわ。
それなのにわたくしを咎めないガーネット様は、なんて紳士的な方なのでしょう。
今夜やり直しをなさると思うから、そのとき昨夜寝てしまったことを謝りましょう。
お優しいガーネット様ならきっと許してくださるはず。それで今夜こそ熱い夜を――!
わたくしはすっかり元気になって、その日はウキウキと過ごしたのだった。
※※※※
ガーネット様と夫婦になってから一カ月が経過した。
城の中の使用人たちはみんな優しく、それでいてわたくしをガーネット様の妻と認め、大切に扱ってくれる。
文化が違うので苦労もある。その一つが、文字だ。
アラクロ大陸の文字は、わたくしの生まれ育ったマレル大陸の文字と大きく異なるのだ。
だからまずは文字を習っている。それから国王の妻としての教育を行うのだ。
だが、それほど苦でもない。
新しい知識が得られるのは楽しい。城の図書室にはたくさんの本が収蔵されているので、それを片っ端から読むのが今の目標です。
アラクロ大陸での生活に不自由や不満はありません。
それよりもわたくしが悩んでいるのは、ガーネット様のことです。
なんとガーネット様は、わたくしと結婚したあの日から、一度も寝室に来てくれないのです。
なぜ!? なぜなのかしら!?
わたくし、もしかして愛されていない?
ですが、夫婦の営みは王の義務だと思うのです。
それを放棄するとはどういうことでしょう?
世継ぎを作る気がないのかしら?
もしかして、ガーネット様には他に愛する方がいて、わたくしはお飾りの妃なのかしら?
そのうちその方と子供を連れてきて、わたくしは離縁されたらどうしましょう!?
考えれば考えるほど不安になります。
ガーネット様に直接夫婦の営みについて問いただしたい気持ちがありますが、そんなことはしたなくてできません。
侍女のニーナにも相談しようとしました。ですが、やっぱりはしたない気がしてできないのです。
しかもこんな状態なのに、ガーネット様は相変わらず優しいのです。
お仕事が忙しくてなかなかお会いできないけど、夕食は必ずわたくしと食べてくださり、「文字の勉強は大変だろう。疲れていないかい?」とか「ここでの生活に不自由があったらすぐに言ってくれ」など、優しい言葉を掛けてくださるのです。
ガーネット様と一緒にいると、愛されているような気持ちになります。
ですが、夫婦の営みはない……。
と言うことは、やっぱり愛されていないのでしょうか?
毎日もの凄く不安です。
そんなとき、マレル大陸に帰りたくなってしまいます。お優しいお母様に泣きながら悩みを聞いてもらい、慰めてもらいたいです。ですが、そんな気弱な心持ちではガーネット様の妻に相応しくありません。
だからわたくしは溢れ出す不安を胸にしまい、毎日必死に耐えているのです。
ああ……。
ガーネット様のお気持ちが知りたい。
愛していないのなら、はっきりおっしゃってくださればいいのに。
でも、もしはっきりと言われたら、わたくしは悲しくて泣き崩れてしまうかもしれない。
だってわたくし、ガーネット様のことが大好きなんですもの。




