第三話 うきゃー! 素敵なお方ですわっ
ダンスが終わると、ガーネットは控えめな笑みを浮かべながら口を開いた。
「殿下。少しお話をしてもよろしいですか?」
お話? なにを話すのかしら? 会話なんてしたくないけど、ちょっとお話してみたい気持ちもある。
わたくしは溢れ出す好奇心に負けて、コクンとうなずいた。
すると、ガーネットがわたくしの手を取り、大広間の奥のバルコニーに向かった。
バルコニーには誰もいなかった。いやだわ、口説かれたらどうしましょうなどと自意識過剰なことを思ってしまう。
手すりにもたれてガーネットと向かい合うと、わたくしは警戒しながら口を開く。
「それで、お話とはなんですの?」
「私と殿下の結婚についてです」
「!」
ガーネットは苦笑いを浮かべながら話を続ける。
「あなたのお父上がどうしてもとご所望なので結婚を承知したのですが、本当のところ、殿下はどうお考えなのですか?」
「え?」
「殿下のお気持ちを聞きたいのです」
まあ! わたくしの気持ち!?
驚いたわ。あの優しいお母様ですらわたくしの気持ちなど無視していたのに、まさかガーネットが気にかけてくれるなんて。
ガーネットはもしかして、わたくしとの結婚が嫌なのかしら? それならわたくしと同じ気持ちだわ! 結婚を白紙に戻せるかも!
わたくしは気持ちが明るくなったがそれは一瞬のことで、すぐに思い直した。
――いいえ。そんなのお父様が許さない。
これは政略結婚なのだ。お互い好きじゃないから結婚はやめようなどと軽はずみに言えることではないのだ。
わたくしは言葉に詰まり、うつむいてしまった。
「わ、わたくしは……」
「嫌ならはっきりおっしゃってください。私から国王陛下に伝えます」
「!」
驚いてガーネットの顔を凝視すると、ガーネットは困ったように微笑んだ。
「私は枯れた中年ですからね。若く美しいロゼリーヌ殿下には相応しくない」
わたくしはうつむき、ガーネットから目を逸らした。
「そんなことはございません」
「正直に言っていいのですよ?」
「……。あなたのこと、枯れた中年なんて思っておりませんわ。それどころか、誰もが目を惹く素敵な美丈夫だと思います」
そう。お姿はとても素敵なのよ……。年の差なんて関係ない。それよりも、野蛮な魔族だから嫌なのよ……。
正直に言ってしまおうか迷ったが、さすがに無礼な気がしたので口を閉ざした。
モヤモヤした気持ちのまま、うつむいた顔を上げる。
すると、ガーネットと目が合った。
そこでわたくしは驚いて目を丸くしてしまった。
なぜかと言うと、ガーネットが真っ赤になっていたからだ。
「わ、わ、私は美丈夫などではございません」
「……」
「ロゼリーヌ殿下のような美しい方にそんなことを言われたら、照れてしまいます」
そう言ってガーネットは、わたくしから見えないように両手で顔を隠した。
「……」
なんかこの方……可愛いですわね。
少し褒めただけでこんなに真っ赤になってしまうなんて。あまり褒められ慣れていないのかしら? シャイなお方なのね。
なんだか揶揄いたい気持ちになってきた。我慢しようと思うのだがその欲求に逆らえず、わたくしは更にガーネットを褒めた。
「本当に素敵な方だと思いました。逞しい体に彫りの深いお顔。更に、声も渋くて素敵だと思いました」
「や、やめてください!」
聞いているのが恥ずかしくなったのか、ガーネットは真っ赤になりながらしゃがみ込み、耳を塞いでしまった。
う、うきゃー!! 可愛いですわ!!
そう思った瞬間、いかずちに打たれたような衝撃が走った。
ガーネットがもの凄く魅力的な男性にに見えてきた。
こんな気持ち知らない。この気持ちはなに?
頭をフル回転して気持ちの正体を探る。
……そう言えば、以前お友達を集めてお茶会をしたとき、その中の一人が言っていたわ。
『恋をするときって、体に電撃が走るような衝撃があるのよ』――と。
まさか、これがそれ!?
わたくし、ガーネットに恋をしてしまったの!?
ドキドキしながらガーネットを見つめる。
美しい顔に美しい体。あの逞しい腕に抱き締められたら、あまりの心地よさに心臓が止まってしまいそうだわ。
そんなことを考えて、わたくしの顔がカァーッと熱を持った。
嫌だわ。わたくし、なんてはしたないことを考えるのかしら?
でも……でも!
ガーネット様、本当に素敵ーーー!!!
魔族なんて関係ないわ!
それに、噂で聞いていたのと全然違う。
粗野でも残忍でもない。それどころか礼儀正しく、照れ屋で可愛いじゃない!
わたくし、この方と結婚したい!
先程まで沈んでいた気持ちが吹き飛び、一気に明るい気持ちになってきた。
わたくしは居ても立っても居られなくなってきて、急いで口を開いた。
「陛下! わたくしあなたとの結婚、全然嫌じゃないですわ!」
「へ?」
ガーネット様がキョトンとした表情でわたくしを見つめている。
「結婚して、幸せな家庭を作りましょう!」
わたくしの勢いに押されて、ガーネット様は慌てて立ち上がった。
「は、はいっ!」
『はい』ですって。余裕がなさそうで可愛い。
お父様の目は確かだったわ! この方は絶対悪い人じゃない!
噂だけで魔族は悪いと決めつけていた自分が恥ずかしい。反省しなければいけないわ。
わたくしは今後の結婚生活を想像し、心が浮き足立つのを感じたのだった。




