第二話 お父様をそそのかした魔族になど、絶対心を許しませんわ
憂鬱な気分で日々を過ごしていたら、あっという間にガーネットと顔合わせをする日になっていた。
舞踏会が大好きでいつもは上機嫌なわたくしだけど、今日は沈んだ気持ちでお父様の横に座っていた。
王座に座るお父様に、貴族たちが次々と挨拶にやってくる。
気分が乗らないが、わたくしも愛想笑いをして対応していたら、一際大きな男がお父様の前に立った。
身長がもの凄く高い。憶測だけど、二メートルほどあるのではないかしら?
年齢は四十代くらいだと思う。彫りが深くとても整った顔立ちをしている美丈夫だ。だけどわたくしが一番驚いたのは、身長でも顔でもない。
頭に生えた二本のツノだ。人間にツノなど生えているはずがない。この方は……魔族だわ!
わたくしに衝撃が走った。
警戒して体を固くしていたら、その者がお父様に対して膝をついた。
「国王陛下。お久しぶりです。ご機嫌いかがですか?」
お父様は「おおっ!」と叫び、とても嬉しそうに微笑んだ。
「ガーネット国王陛下ではないか! よくぞ来てくれた!」
「お会いできて光栄です」
この方がガーネット!
お父様をそそのかした悪い魔族ねっ。
わたくしはキッとガーネットを睨み付けた。
すると、そんな視線には全く気付いていないお父様が、ニコニコとわたくしを紹介した。
「こちらがワシの娘、ロゼリーヌだ」
ガーネットがこちらに顔を向けた。
やっぱりもの凄く整った顔で少しだけたじろいでしまったけど、わたくしは睨むのをやめなかった。
「ようこそお越しくださいました。ガーネット国王陛下」
冷たい声で言ったのに、ガーネットは全く気にしていない様子だ。それどころか美しい笑みを浮かべながらわたくしに挨拶した。
「はじめまして、ロゼリーヌ殿下」
「……。今日は楽しんでくださいまし」
本当はそんなこと言いたくないけど、王女が失礼な言動をすることは許されない。でも、視線と声色だけは冷たいものをつらぬいた。
お父様はガーネットと会えたのが嬉しくて、わたくしの態度には全く気付いていないようだ。
ガーネットとわたくしを交互に見つめ、上機嫌で口を開いた。
「二人とも、今日が初の顔合わせだな。来賓の挨拶が終わったら、ゆっくり話をするといい」
「……。はい、お父様」
わたくしは沈んだ声でつぶやいた。
ガーネットはニコリと微笑むと、その場から辞した。
それからも来賓の挨拶は続く。
一通りの挨拶が終わりやっと一息ついた頃、宮廷楽団が軽やかな音楽を演奏しはじめた。
紳士淑女は手と手を取り合い、楽しそうにワルツを踊っている。そんな中、またしてもガーネットがわたくしに近付いてきた。
ガーネットはわたくしに手を差し伸べ、ニコリと微笑んだ。
「殿下。一曲いかがですか?」
「嫌です」と喉まで出かかったとき、お父様がはしゃいだようにわたくしの方を振り返った。
「ロゼリーヌ。踊ってきなさい」
「……。はい、お父様……」
お父様には逆らえない。
わたくしは嫌々ガーネットの手を取ると、大広間の中央に向かった。
みんなの視線を感じる。
それはそうだろう。
アラクロ大陸を治める魔族の王と、マレル大陸を治める人間の王の娘がダンスをするのだ。
興味を引くなと言う方が無理だ。
わたくしたちは大勢の視線に見守られながら、ワルツを踊りはじめた。
粗野だと言われる魔族にしては軽やかなステップで、どちらかと言えばわたくしの方がリードされてしまった。
だんだん楽しくなっていく気持ちを抑え、ガーネットに語りかける。
「陛下。ダンスがお上手ですね」
「ありがとうございます。この日のために猛特訓したのです」
猛特訓したと言っているが、ジョークだろう。
ふふ……。面白い方ですわね。
少しだけ気持ちがゆるんでしまい、ハッと我に帰る。
いけないですわ。魔族になど心を許しません!
だが、ガーネットのステップは、一朝一夕で身につくものではないのだ。恐らく、普段から踊り慣れているのだろう。
へぇ……。魔族もワルツを踊るのね。人間と同じだわ。
わたくしは魔族と人間の共通点を知り、少しだけ驚いたのだった。




