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第一話 魔族の殿方と結婚なんて、絶対嫌ですわ

「ロゼリーヌ。話がある」


 お父様がそう言って、わたくしの部屋に入ってきた。

 わたくしは作りかけの刺繍(ししゅう)をテーブルに置き、ニコリと微笑んだ。


「何ですの?」

「うむ」


 お父様が向かい側の椅子に腰掛けた。

 それから真剣な表情でわたくしを見つめると、静かに語り始めた。


「お前に縁談の話をもってきた」

「まあ……」


 ついにこの時が来たのね。

 わたくしはお父様――いえ、国王の娘。

 自由な恋愛など許されない。幼い頃から結婚相手はお父様が決めると言われてきた。

 覚悟はしてきたけど、少し怖い。暴力を振るうような殿方だったらどうしましょう。

 わたくしはゴクリと喉を鳴らすと、ドキドキとお父様に確認した。


「そ、それで……どんな方ですの?」

「魔族の男性だ」

「!」


 魔族ですって!?

 魔族はおそろしく、粗野で残忍な種族と聞いたことがある。曖昧(あいまい)な言い方になってしまうのは、わたくしも見た事がないからだ。

 そんな殿方とわたくしが結婚!? こればっかりは受け入れられないわ!


「嫌です!」


 即答するわたくしから目を逸らし、お父様は椅子から立ち上がった。


「もう決めたことだ。お前の結婚相手は魔族の王だ。一年後に式を挙げる。その前に舞踏会を開くので、そこで顔合わせをしろ」


 そんな……!

 もう式の日取りまで決まっているなんて……! 

 ワガママを言いたくないけど、魔族なんて嫌! せめて人間の殿方がいい!

 わたくしは目に涙をためながら何度もお父様に嫌ですと懇願(こんがん)した。だが、お父様は聞く耳を持たず、さっさと部屋を出ていってしまった。


 悔しくて悲しくて、わたくしはベッドに突っ伏した。


「酷いですわ! なぜわたくしが魔族などと……!」


 わたくしはお先真っ暗な結婚生活を想像し、ポロポロと涙を流したのだった。


※※※※

 

 世界は二大陸に分かれている。

 一つは人間の住む『マレル大陸』。そしてもう一つが魔族の住む『アラクロ大陸』だ。


 二つの種族は互いに干渉せず、独自の文化を築いていた。

 だが、その均衡(きんこう)を破った者がいる。

 魔族の王――ガーネットだ。

 ガーネットはわたくしのお父様に使いを送り、魔族と人間の『同盟』を申し込んだ。

 二種族の同盟など聞いたことがない。もちろんお父様の側近や補佐たちは大反対した。

 それはそうだ。魔族はおそろしく、粗野で残忍な種族だと信じられてきたからだ。そんな種族と同盟を結んだら、問題が起こるのは明白だ。

 だが、お父様はガーネットが気に入ったらしく、一人で魔族との同盟を受け入れてしまったのだ。それが半年前のこと。


 それから二つの種族は一つになった。

 お互いの国を自由に行き来出来るようになったのだ。

 だが、人間の国民はそれを受け入れる事ができなかった。

 もし魔族が人間の国にやって来て、乱暴な振る舞いをしたらどうしようかと気が気ではなかったのだ。

 それほどまでに、魔族は恐れられている存在なのだ。

 

 同盟など結んだが、魔族と人間の(みぞ)は深まるばかり。

 そこでお父様は考えたのだ。

 わたくしと魔族の王、ガーネットとの結婚を。


 二人が結婚すれば国民は魔族に対する見方が変わるし、両種族の(きずな)も深まる――そうお父様は判断したらしい。


 それらの話をお母様からこっそり打ち明けられた時、わたくしは目の前がクラクラした。


 なぜお父様は周りの意見を聞かず、独断で同盟などしてしまったのかしら?

 考えたくはないけれど、お父様より魔族の王の方が一枚上手(うわて)で、騙されてしまったのではないかしら?

 もしくは悪い魔法にでもかかっているとか……。

 だって魔族は魔法に()けていると聞いた事があるし。


 とにかくこの同盟は間違っている。

 魔族と人間が分かり合える日なんて、これから先絶対にあり得ないのよ。

 そんなことをお父様に(うった)え続けたが、やっぱり聞いてもらえず、魔族の王ガーネットと顔合わせをする舞踏会の日時が刻々と迫っていたのだった。

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