6-18
次に雨が訪れたのはプラネタリウムにデートした時だった。そこではっきりと分かった。直陽くんは、私を待っている。そして私を安心させようと、いつも温かい言葉をかけてくれるようになっていた。
「あれ?もしかして休講?」私はそう言って、スマホを確認する。「ああ、通知来てた」
「俺も気付かなかった。昨日の夜にもう来てたんだね」『まあ、しょうがないか』
「じゃあさ、直陽くん、今日もデートしようよ」『このあまねさんは、デリケートなこともサラッと言う。まあそこも嫌いじゃないんだけどね』
直陽くんが続ける。
「どこに行く?雨の中公園ってわけにもいかないだろうし」
「じゃあ、今日は私が考えるね」そう言ってしばらく考えた。そうだ、小学校以来行ってない、プラネタリウムでも行ってみよう。直陽くんと夜空ってのもいいかも。
「よし、これにしよう」
と言って私は直陽くんを手招きした。
電車をいくつか乗り継ぎ、プラネタリウムにたどり着く。
「あれだよ、あれ」
駅の案内板には「プラネタリウム」と書かれている。
「なんでまた、プラネタリウム?」
「何となくー。プラネタリウムなんて最後に行ったのは⋯小学生?何か楽しそうじゃない?」
「確かに。意識しないとなかなか来る場所ではないね」
平日であまり混んでもいなかった。
ちょっと上向きの座席に座る。
「映画館とも違う。座席の角度とか独特だよな」『結構ワクワクしてるな、俺』
「私たちが小学生のころよりきっと進化してるよね、きっと」と私も応える。
上映が始まる。
星座の説明、軌道エレベーター、宇宙ステーション、宇宙船、遠くの銀河、スケールがどんどん大きくなる。
宇宙船は光速に近付いて、周りの時間がゆっくりになる。相対性理論の話。
「光速に近付くと周りよりも時間が遅くなって、未来に行けるんだ。戻ることはできないけどね」
その説明に私が夏合宿で考えていた「過去を変える」は非科学的だったのかと考えた。
「直陽くん」私が声を掛ける。
直陽くんがこっちを向く。
「直陽くん」
「うん、なに?」
「私ね、過去は変えないことにした」
『そういえば、夏合宿の時、そう言っていた』
「合宿の、演劇?」
「そう。その時の」『真相を伝えるのはやめるということかな。いつまでも待つつもりだったけど、あまねさんが言いにくいのなら無理に知らなくてもいい』
「過ぎ去った過去は変えられない。だから――未来を変えようと思う」
「それはどういう――」
そこで上映が終わり、誘導員に連れられて、ホールから退出した。
ホールから出てきた私たちは、ロビーのベンチに座って話の続きをした。
「未来を変えるってどういうこと?」
「さっき、相対性理論の話が出たでしょ。光速に近付いたり、ブラックホールに近付くことで未来には行けるけど、基本的に過去に行く方法は見つかっていないって。そこで思ったの。過去は変えられない。変えられるのは未来だけだって」
『冗談を言おうとしている⋯わけではなさそうだな』
「――でもね。私、今の自分に甘えるのも嫌なんだ。これは、その、私の完全なわがまま。必ず直陽くんには話すから。その時が来たら」
「うん。分かった」『 いつまでだって待つよ。俺は、どんな君でもそばにいたい』
私はこうして直陽くんの言葉を無断で聞いている。ずっとあなたの気持ちを聞いている。それを今でも言い出せないでいる。雨の日の力を使っても言えなかった。本当に弱い自分。
なのに直陽くん⋯。いつの間にかこんなにも強くなってたんだね。嬉しさと、自分への情けなさが込み上げてきた。
気が付くと止められない感情の渦が涙となって現れた。
咄嗟に立ち上がると背を向けた。涙を見られるわけにはいかない。私は直陽くんの手を握り、
「行こ!」
と言って歩き出した。
涙に濡れる顔を隠しながら、
「直陽くん、ありがとね」
と伝えるのがやっとだった。
本当の意味で直陽くんのことを「信じる」ことができるようになりたい。傷付くことを恐れずに、直陽くんに心を委ねたい。そのためには、雨の能力に任せてはいけない。雨の日に頼らず、その能力が使えない時に、きっと全てを打ち明けようって決心した。




