表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第六章 朝霧あまね
95/104

6-17

 台風の時の雨の能力を使っても事情を話すことはできなかった。

 そして、また雨のない日々が続き、踏み出せなくなってしまった。

 でも嬉しいこともあった。夏目漱石のI love you. の話の時だ。


 直陽くんは言った。

「あれって結局は、月じゃなくてもいいんだよね。何か一緒に見ていて、その美意識なり価値観なりを共有している、そういう雰囲気が大事なんじゃないかと思う――例えばそうだな」

 そう言って、直陽くんは空を見上げた。

 私は、「何を言うのかな?」とワクワクして、直陽くんを見つめていた。

 直陽くんはちらっと私を見て、ちょっとはにかんで、また空を見上げる。

 時々気持ちの良い風が通り抜けていく。

 直陽くんは前を向き、前にいたベビーカーを押したお母さんを見ている。

 お母さんは子供に何かを話しかけているが、急に泣き出してしまい、抱き上げ、あやし始めた。私も気になってしまって、ずっとその親子を見ていた。私にも直陽くんにもこんな時期があったんだよな、なんて思っていた。

「あまねさん」

 直陽くんの言葉で、自分が考え事をしていたことに気付く。

「ん?」少しぼーっとしながら、直陽くんの方に顔を向けると、直陽くんは、

「俺は、あまねさんと一緒にいて、ただ黙って流れるこの時間も好きなんだ」

と言った。

 え?どういう意味?一瞬頭がついていかなくなり、直陽くんを凝視してしまう。

 「月のように、同じ美意識や価値観を共有する、それがI love you. 」

 飛び上がるくらい嬉しいことなのに、何故か心は穏やかだった。

 ありがとう、直陽くん。もう君は私に気持ちを伝えてくれているんだね。もちろん、私も好きだよ。でも、どうしてだろう。まだはっきりと伝えてはいけない気がするんだ。

 私はすぐに前を向いてそっと微笑んで伝える。「私も」。

 私も、直陽くんと一緒にいて、黙って流れるこの時間が好き。「私も」って言うだけで、直陽くんには私の気持ちが伝わる。この関係が、この上なくいとおしい

「直陽くんって不思議だね」

「そう?あまねさんには負けるけど」

 私はふふっと笑ってしまう。確かに私もちょっと変だからね。


 この時しっかりと分かったんだ。直陽くんの気持ちも、私の気持ちも。そしてそのことに気付いたのは雨の日じゃなかったんだ。

 本当に大切なのは、人の心を読めることじゃない。気持ちを推し量りながら、言葉のやりとりをすることなんだ。そのことに気付かせてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ