表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第六章 朝霧あまね
93/104

6-15

 電車は混み気味で座れなかった。発車ベルが鳴り、ドアが閉まる。

 人は多かったが、電車のモーター音が響くだけで、ほとんど話し声もしなかった。

 その静寂がまた二人を隔てる。

 琴葉ちゃんとの一件から、直陽くんに向き合えない――ううん、避けてきた自分に後悔していた。もっとやりようはあったはずだ。

 でもそれが今の私の限界だったのかもしれない。やはり雨が降っていない日は、人が怖い。だからこそ距離を置いてきたのに。 

「ごめんね」

 自然と口をついて出ていた。逆に言えばそれしか思いつかなかった。

「ううん」

 即座に否定し、直陽くんが気遣いを見せる。

「不安になった、よね。琴葉ちゃんの申し出を軽い気持ちで受けちゃって、後悔してる。直陽くんからしたら、気持ちいいものではないよね」

 一番嫌いな自分が出てきてしまっていた。こんなことを言って、直陽くんに何を言わせようとしてるんだ。

「俺はあまねさんと何か一緒にできることが、嬉しかったんだと思う。あまねさんは、ちょっと危なっかしいところもあるけど、予想がつかなくて、正直言うと、楽しかったんだ。だから――」

 雨の日に聞こえていた直陽くんの心の声が私の中でこだまする。

『実はこういう子、嫌いじゃない』

 その声を聞いた時どれだけ嬉しかったか。そう思ってくれた直陽くんを、私は裏切った。心配させた。きっと傷付けもしたはずだ。

「言ってくれていいよ」

 私は恐る恐るそんな言葉を絞り出すと、直陽くんの言葉を待った。どんな言葉でも受け取ろう。どんな批判も甘んじて受け入れよう。

「ショックだったのは確か。でも、それは完全に俺のわがまま。気にしてくれてありがとう。でも、もう大丈夫。成瀬さんとは和解できたし。そして、もしあまねさんに何か事情があるなら、待つから」

 思いもしない言葉だった。私はあなたを傷付けたのに。不安にさせたのに。私の知っている直陽くんじゃない。そうか、直陽くんも前に進んでいるんだね。

 心の声は聞こえないのに、直陽くんの勇気と強さと優しさが染み込んでくる。

「ごめん、直陽くん。本当にごめん」

 直陽くんの顔を見ることができなかった。たぶん震えていたと思う。

 この時私はまだ「信じる」ことの恐怖と対峙たいじしていた。まだそこに踏み込むかどうかということに精一杯で、雨の日の秘密を打ち明けることは全くできそうになかった。

「大丈夫だよ、きっと」

 直陽くんのつぶやきに私はハッとする。顔を上げ直陽くんを見た。直陽くんはあの時の私と同じ気持ちなんだ。

 ありがとう、直陽くん。君は勇気をくれたよ。



 地下鉄を降り、バス停まで歩いていく。「緋坂台ひさかだい団地行き」と書かれたバス停までたどり着く。

 あと少しの力が欲しかった。「信じる」ことと闘う力が。

 もう気持ち悪いやつって思われたっていい。

 隣に立つ直陽くんの右手をつかんだ。

 私は消え入るような声で呟いた。

「⋯ちょっとこのままでいい?」

「⋯うん」

 私は少し震える手を直陽くんの手に重ね合わせ、その体温を感じていた。

 バス停を降りると、少し離れて向かい合った。

「直陽くん!ありがとう!私、頑張る!」

 不安にさせてごめんね。君の強さ、勇気、力、全部受け取った。私も闘わなくてはいけない。踏み込まなくてはいけない。

「うん」

「また、連絡するね」

「うん」

 私はバス停を離れて歩き出す。

 時々気になって振り返るが、直陽くんの位置は変わっていなかった。私が手を振ると、直陽くんも控えめに手を振った。

 私が脇の小道に入って見えなくなるまで、直陽くんは見送ってくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ