6-12
その日の昼休み、汐里ちゃんに呼ばれた。部室では話しにくいからって、A校舎裏手の人気のないベンチのところに。
「どうしたの?こんなところに呼び出して」
私は何があったのか、正直分かっていなかった。
「いやね、月城君に、あまねのこと訊かれたよ」
どきんと心臓が打たれるような気がした。正直、直陽くんが汐里ちゃんに近付くと思ってなかったから。もしかして私が部長といた姿を見た時ってこんなだったんだろうか。私はやっぱり直陽くんが気になっているんだな。
「何を訊かれた?」
「できるだけ早く伝えた方がいいかと思って。本人からは特にどうこうしてほしいという話ではなかったんだけどね。だから話すのは私の判断」
そう言って汐里ちゃんは続ける。何を言われるのだろうかと私は身構える。
「『あまねさんはどうですか?南条さんから見て何か変わったところはありますか?』って訊かれた。私から見て何か大きく変わったようには見えない、って答えたよ。実際そうだし。ただ――」
「ただ?」
先を促している自分に驚いた。これまでの自分なら、晴れの日に踏み込まれたと思ったら、話をはぐらかしていた。今汐里ちゃんは明らかに、私の領域に踏み込もうとしていた。私もこれまでのような防衛本能が働かない。やはり最近の私はおかしい。
「ただ、あまねには繊細なところがあるって言ったよ」
「それはどういう――」
一瞬言葉が詰まる。
「私にもよくは分からない。けど、こう、あまねって時々一人で考え込むことあるよね。突然距離があいたような」
「知ってたの?」何を言ってるんだ、私は!
「何となく。何かを隠してるのは分かってた。私も迷ったけど、月城君があまねを気にしているのを見て、ちょっと黙っていられなくてね」
そう言って汐里ちゃんは一瞬、拍を置いた。
「あ、責めてるんじゃないんだよ。ただ、何というか、月城君も闘ってるんじゃないかな。自分と」
直陽くんは、自分から他部の女の子に進んで話しかけようとは思わないじゃないかな。少なくとも今までは。直陽くんは変わろうとしている。
私もこのままではいけない。
汐里ちゃんも、踏み込まない選択もできたんだ。私に告げることで、面倒なことに首を突っ込む危険性もあった。友達同士、嫌われたり傷付けられたりするのが怖くて、程よい距離感で付き合っている人がほとんどだ。なのに汐里ちゃんは踏み込んでくれた。
私も闘う覚悟がないといけない。
「汐里ちゃん?」
「なに?」
「ありがと」
私の心の奥から何かが芽生える。
それは、あの時失った何かをまた手に入れたいという静かな願いだった。
「ありがと。汐里ちゃん。ずっと友達でいようね」
「どした?いきなり。あらたまっちゃって」
そんな言葉とは裏腹に、汐里ちゃんは温かい笑顔を私に向けた。その微笑みに包み込まれ、思わず目が潤む
「泣くのはまだ早いぞ。問題を解決してからな。解決したら教えてね。一応、展開が気になるし」
そう言って汐里ちゃんはニカっと歯を見せて笑う。「あ、そうそうさっきの答えは『はい』ね」
「え?何だっけ?」
「おいおい、しっかりしてくれ。だから、ずっと友達でいよう、ってこと」
「あ、そうか、へへ」
踏み込んで良かった。傷付くのが怖くて、逃げてばかりいた。でも逃げないで向き合うことで得られることもある。
どうして私は動き出せたのだろう。ずっと立ち止まっていたのに。
私はみんなに励まされている。私の過去を知る人はここにはいない。なのに、気が付けばみんなが私の背中を押している。人ってそうやって繋がっているのかな。
私もいつか、誰かの背を押せる人になりたい。汐里ちゃんの笑顔を見ながら、そんなことを考えた。




