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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第一章 梅雨

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9/41

1-8

 雨は降り続いていたが、B校舎の外階段にはひさしが付いていて、傘を差さなくても濡れることはなかった。

「さっきの直陽くんの写真はこの辺から撮ったものだよね?」

「そうだね。撮った時間は夕方ぐらいだから雰囲気はちょっと違うけど」

 この辺りは食堂棟前の広場に繋がっていて、授業が始まる頃になるとそれなりに人が通る。今は昼休みが終わるまで三十分以上あるので、それほど混んでいるわけではない。数分に一度人が通る程度だ。

「同じ角度で、私を撮ってみて。ポーズは⋯こんな感じ?」

 外階段の手すりに片手を軽く乗せ、ものげに遠い目をしている。

「ちょっと撮ってみて」

 あまねに言われるままに一枚撮ってみる。

 おお、これは⋯。

「ちょっと芝居じみてはいるけど⋯今までのあまねさんのイメージはだいぶ違うね」

「今までこういうのは撮ったことある?」

「⋯ない。こんなこと頼める人いなかったし」

「やってみてどう?なんか新しいことできた気がする?」

 目を輝かせながら何かを期待している表情。確かに。人物写真、悪くないかもしれない。

「うん。もっと撮ってみたくなった」

「おお、そうかそうか、お姉さんも役に立てたか!」

 あまねは得意げな表情を見せる。とても分かりやすく、素直な性格だなと思う。

「で、役に立ったついでといっては何なんだけど」そういってあまねはデジカメに表示された写真を指差す。「これを見て、どう思う?」

「あまねさんじゃない、みたい」

 あまねの意図を測りかねて言葉を濁す。

「私じゃないのなら、なおさら、どんな子に見える?」

「⋯それはつまり、天真爛漫で、バスの隣の知らない人に話しかけたり、授業で遅刻してきてもものじしないあまねさんじゃなくて、ってことだよね」

「⋯なんかからかわれた気分。べつに誰にでも話しかけるわけじゃないよ」

「え?」

「で、どんな子に見える?気にしないから何でも言って」

「大人しそうには見えるね。そして、悩みを抱えてそう」

「うんうん。他には?」

「でも垢抜けてはいるから、都会には住んでそう」

「ほうほう!」心做こころなしか嬉しそうだ。

「真面目そうで、心の中では勉強はしたくないって思っているけど、親に反抗できなくて大学受験まで来た、って感じ」

「まあ、そのへんは実際そうだったけど」ちょっと苦笑気味だ。

「⋯このくらいでいいかな。やっぱり本人を目の前にして言うのは拷問だよ」

「ごめんごめん。今度は私の番ね。そこに適当に立ってみて。あ、適切にって方の適当」

 直陽もあまねが先程したのと同じように手すりに手を掛けて立つ。

「じゃあ、撮るね」

 そう言ってあまねは自分のスマホを直陽に向ける。

 途端に直陽は笑顔を見せた。

「え?」あまねは驚きを隠せない。「直陽くん、すんごい笑顔だよ」

「そうなの?ごめん」自分では気付かなかった。カメラを向けられると自然に笑顔になってしまう性分なのかもしれない。

「いいのいいの。そのままでいて。⋯おー、かわいいね!」

 馬鹿にされているのだろうか。

「あ、女子の言う『かわいい』は褒め言葉だからね!」そう言って、あまねは自分のスマホ画面を直陽に見せる。「今度は私が言うね」

 どんなことを言われるのだろうか、と身構える

「すごく、幸せそう。愛情に溢れていて、友達も慕ってる後輩もたくさんいて、いつも心が穏やか。いつも周りが元気になるような言葉をかけてくれる」

「本人目の前にしてよく言えるね」

「そう見えるって話」

「だからこそ。今そうじゃないからさ」

 直陽は、言葉ではそう言ったが、内心は嬉しかった。たとえ「そう見えただけ」だとしても、そんなこと言われたのは初めてだった。

 あまねが何かつぶやいた。その直後、強い風が吹き抜けた。そのせいで、あまねの声はほとんどかき消されて聞こえなかった。

 再びあまねが話し出す。

「でね、こうして写真を通すと、何か物語が見えてくる気がしない?」

「確かに」

「結局さっきの汐里ちゃんの話だとさ、何か核となる出来事なり人物なりを設定して、それを元にストーリーを書いていくって言ってたじゃん。これがその核にならないかな?」

「⋯なるほど。いいかもしれない」

 この子は少し危なっかしいところもあるが、結構ひらめきのある子なのかもしれない。

「だからね、時々直陽くんの写真を見せてほしいの。風景でもいいし、食べ物でも空でも木でも、もちろん人物でも」

「写真部と文芸部のコラボってわけか。面白そうだ」

 直陽は急に興味をそそられてきた。

「ね!面白そうでしょ」

「そうだな。楽しそう」

 あまねがふふふと小さく笑う

「どうしたの?何かおかしい?」直陽がいぶかしがる。

「直陽くん、笑っている」

 自分でも気付いていなかった。

「楽しそうだと思ってね。それに⋯」

 これはまるで⋯。

「芸術家、みたい」あまねがニヤッとする。

「そう!それを言おうと思ってた。画家と作曲家のコラボ、みたいな」

「そうそう、そういう感じ。まあ、写真家と小説家は立派な芸術家なんだけどね、みたい、じゃなくて」あまねの顔は少し誇らしげだ。

「卵の卵の卵でしかないけど」

「マトリョーシカみたいでいいじゃん」

「そういうことじゃないんだけど。ほんと、あまねさんって変わったこと言うね」

 そこまで話していて、近くを通る学生たちが多くなっていることに気付く。しかも走っている人が多い。

「「あ!」」腕時計を見て二人ほぼ同時に叫ぶ。次の授業が始まる時間になっていた。

 簡単な挨拶を交わし、あまねはA校舎に、直陽はB校舎二階へと走っていった。

 走りながら直陽は思い出していた。さっきの風が通り抜けた時のこと。あまねの声はほとんど聞こえなかったが、その口の形が思い出された。あれは⋯。


「大丈夫だよ」


**次回予告(1-9)**


あまねとの間に始まった「コラボ」。これを機に人物写真に挑戦しようと、まずは男子部員に話しかけることに。


**作者より**


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