6-11
翌日は「恋愛の近代文学と心理学」のテストの日。
朝六時三十分のバスを待つ。雲一つない快晴で、たぶん今日は暑くなるだろう。
昨日のこともあり、私は気持ちが後ろ向きになり、ダラダラと家にいた。家を出るには、何とか気持ちを振り絞らなければならなかった。バス停にはギリギリに着いた。
直陽くんが軽く手を挙げる。どうな顔をしたらいいか分からなかった。直陽くんのことをしっかり見ることができず、軽く会釈しただけになった。
私は直陽くんの隣に立ったが、何も言えなくなってしまう。
「あまねさん?」直陽くんが心配した様子で声を掛ける。
「⋯はい」
「今日のバス、あまねさんの隣に座ってもいいかな?」
「⋯うん、いいけど⋯」
どうしていいか分からず、目をそらしてしまった。
私は何をやってるんだ。言うべきことはたくさんあるはずなのに。動け!私!
でもだめ。心が動かない。こんなことは、高校入ってから、つまり雨の日の力を手に入れてから一度もなかった。
バスに乗って、隣同士に座る。
何度か直陽くんが話そうとして私の方を向くが、私は動けない。見ることもできず、ずっと俯いていた。
直陽くんは何かを考えている。この前私が言った偉そうな言葉を思い返しているのだろうか?あんなことを言っておきながら、不安にさせるなんて?!と。
私は何を言ってるの?!
直陽くんがそんな人じゃないことは分かってる。こんな邪推をしてしまう自分が心底嫌だった。そんなことを思うはずがないと分かっていながら疑う自分も、分かっているからこそ、それに甘えている自分も。
ちゃんと向き合わないとダメだ。
バスは信号で停まり、エンジン音が消える。車内に静寂が訪れる。
私を見ていた直陽くんは、いたたまれない様子で目線を前にそらした。
「あのね⋯⋯私」
私は消え入るような声で言葉を絞り出す。直陽くんはチラッと私を見たが、その視線に、また勇気が引っ込む。本当に私はどうしようもない。
「⋯ううん。何でもない」
そう言うのがやっとだった。
駅に着くと、私は「先行くね」とだけ告げて、席を立ってしまった。もう口と体が勝手に動いていた。
苦しい。私は何をやっているの?
今まで何ともなくうまくやってきたのに。雨の日の力と、それが使えない時の落差に慣れていたはずなのに。
しかも一番大切にしたい人の前でこんな姿を晒すなんて。
一番大切にしたい人?
あれ?直陽くんは一番大切な人、なのかな。そう、なのかな?
自分の気持ちにはっきりと気付いたのはこの時かもしれない。




