6-9
一時間ほどして、スマホの通知に直陽くんからのLINEが表示された。そこには、「さっきは突然ごめん。俺も成瀬さんがあんな風に話すのは初めて⋯」と表示されていた。反射的にタップしそうになって、思いとどまった。
琴葉ちゃんの話を避けるわけにはいかない。でも琴葉ちゃんの話をすれば、今日琴葉ちゃんとコラボの約束をしたことを話さなくてはならなくなる。それを直陽くんはどう思うだろう。
私は昔から明るい子だと思われることが多かった。だから、いろんな人と気軽に話して、たくさん友達がいるんだろうと思われることもある。雨の日の力を使えば、それもできる。けど、特別やりたいとは思わない。結局表面上うまく取り繕って踏み込まないことが多いから、誰とでも話すというわけでもないのだ。
コラボの話はもともと、雨の日のテンションが高めの私の思いつきだ。その流れに乗せて直陽くんに近付きたかった。もちろん小説を書くためというのも嘘じゃない。けどやっぱり、このコラボは直陽くんと私の間だけのものにしておきたかった。
直陽くんはどう思うだろう。私が誰とでも仲良くなるような子なんだから当然と思うだろうか。そう誤解されてしまうのも、なんか、悲しかった。
私がちゃんと断れば良かったんだ。でもなんて言って?「ごめん、こんは直陽くんとだけの共同作業だから、あなたとは組めないの」って?無理無理。
やっぱり琴葉ちゃんからの写真は受け取りつつ、直陽くんにも説明した方がいいだろう。でも当面雨は来ない。雨のない私が、しっかり話せるだろうか。
直陽くんは決して弱い人ではないけど、繊細な人だということも分かっている。琴葉ちゃんとのことを聞いたら、きっと傷付く。この前の直陽くんの心の声が思い出され、胸が締めつけられる。
とっくに家には帰ってきていたが、何時間も考え込んでいる自分に気が付いた。その時、昔のお母さんの声と、今の私の声が頭の中で重なる。「推測からは推測しか生まない」。今まさに私がその罠にかかっていた。
直陽くんから見たら、まだ既読もついていない。絶対に気になっているはずだ。
とにかく何とかしなきゃ。そう思ってLINEを開き、既読をつける。あとはもう、とにかく説明するしかない。
あまね:「返信遅くなってごめん。電池が切れちゃってて。琴葉さん、元気な人だったね。それと、ちょっと言いにくいんだけど、琴葉さんも小説コラボに参加してくれることになった。」
電池が切れてたというのはもちろん嘘だ。
すぐに返信が来る。
直陽:「それは、俺が撮る人物写真に参加してくれるってこと?」
もう流れが始まってしまった。もう止められない。
あまね:「そういう意味じゃなくて、琴葉さんも写真を自分で撮って送ってくれるってこと」
直陽:「そっか。協力してくれる人が増えて良かったね!」
あまね:「うん、写真部、いい人たちばかりだね!」
それきり返信が来なくなった。
ああ、やってしまった。
こうなることは分かっていたのに。なんで簡単に琴葉ちゃんとあんな約束をしてしまったのか。
その日は自分の行動を悔やみながら布団に入ったが、ほとんど寝られなかった。




