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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第六章 朝霧あまね
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6-8

 七月の中旬ごろ。テストが終われば夏休みという時期。遂に梅雨が明けてしまった。世間ではジメジメした空気が過ぎ去り、皆が活気を取り戻す季節。でも私は逆だった。心の声が閉ざされ、思い通りにならないことが増える。これまでなら人との心の距離を取ってやり過ごしていた。

 でも今年は違った。


 テストも中ほどまで進んだある日。

 文芸部の部室で汐里ちゃんと話をしていた時、扉をノックする音がした。

「誰だろう?」そう言って、扉近くに座っていた汐里ちゃんが、ドアに近付いていった。

 扉を開けて、「はい?」と返事をする。

「あ、南条さん、お久しぶりです」

 直陽くんの声がする。

 汐里ちゃんが、

「あ、あまね?中にいるよ。どうぞどうぞ」

と言うと、

「あ、今日は別の部員もいるんだけど、いいかな?」

と直陽くん。

 私からは物陰になっていて直接は見えなかった。ただ、誰かを紹介しているのは聞こえてきた。「ことは」と聞こえてきた。きっと先日のあの子だろう。

「うん、もちろんいいよ。どうぞ」

 汐里ちゃんは二人を招き入れた。

「あ、直陽くん⋯」

 一瞬嬉しくなって話しかけようとしたが、今日は雨が降っていないことを思い出して、目をそらしてしまった。幸い、直陽くんは、私の変化には気付いていない。

 直陽くんは琴葉ちゃんの紹介をした。

「成瀬琴葉さん。うちの部の部員。俺たちと同じ二年生。そして」

 続けて琴葉ちゃんに私の紹介をする。「こちらが朝霧あまねさん」

「どうしてもあまねさんに会いた――」

「このたびは⋯すいませんでした!」

 直陽くんの言葉を遮り、琴葉ちゃんが前に進み出て、大きく頭を下げた。

 私は驚いて、

「そ、そんなにかしこまらなくても⋯」

 と言った。

 琴葉ちゃんは頭を下げたまま話し続けた。

「⋯私、うらやましかったんです。私とどこか似ているって思ってた月城君が、先に進み出しのが」

 やっぱり、読みは当たってたんだ。

 琴葉は、頭を上げて、緊張した面持ちで言った。

「わ、私と、友だちになってください!」

「うん⋯私は構わないけど⋯」

「本当ですか!じゃあ、うちの部室にも来てください!」

 琴葉ちゃんは私の手首をつかんで、写真部の部室の方へと引っ張っていく。

 写真部の部室に入ると、琴葉ちゃんは私を椅子に座らせて、話を始めた。

「あのね、私も人物写真ちょっと苦手で、でも挑戦したいなって思ってて、それで、あまねちゃん――って呼んでいい?」

 人との距離感をつかむのが苦手な子なんだなと思った。

「⋯うん、いいけど」

「それで、私もあまねちゃんの写真撮っていいかな?」

「うん」

「じゃあ撮るね」

 と言って、鞄の中からカメラを取り出すと、何のためらいもなく、シャッターを切った。琴葉ちゃんは少しの間カメラの画面を眺め、少しうっとりした目をした。そして、

「でね、あまねちゃん、小説書こうとしてて、そのテーマのために写真部とコラボしようとしてるって聞いて、私も協力したいなって」

 と一気にまくし立てる。その距離の詰め方にちょっと苦いものを感じる。かつての私にもこんなところがあったのではないか。

 その後も琴葉ちゃんはずっと何か話していたが、私は莉奈ちゃんに呼ばれてベランダに出ていった直陽くんが気になっていた。莉奈ちゃんはちょっと秘密の話って感じだったし、たぶん私と琴葉ちゃんの話だろう。

 琴葉ちゃんの話は半分に聞いていて、うん、うん、と生返事をした。

 そうこうしているちに、直陽くんがベランダから少し急いでいる感じで戻ってきた。

 本当は少し直陽くんに声を掛けたかったけど、琴葉ちゃんの話は続いていたし、直陽くんも急いでいた――たぶんテストだろう――から、言葉を交わす暇もなく、直陽くんは通り過ぎていった。

 気が付くと、琴葉ちゃんとのコラボの話が進んでいた。

「じゃ、そういうことで!今度私からも写真送るから、LINE教えて」

「あ、うん」

 LINEの画面を開くと、トーク一覧に「月城直陽」という名前があるのを見て、直陽くんのあの日の感情と、マックでの言葉のやりとりがよみがえってきた。

 気を取り直して、LINEの交換をする。

 一通り用事を終えたと思ったのか、琴葉ちゃんは「じゃ、私テストだから行くね」と言って早々に立ち去ってしまった。

 写真部の部室に一人取り残されてしまう。

 そこにベランダの扉が開き、莉奈ちゃんが戻ってきた。

「いやあ、お恥ずかしいものを見せてしまったね。申し訳ない」

 私のすぐ隣に座っていた琴葉ちゃんとは対照的に、少し距離のある、テーブルを挟んだ席に座った。

「初めましてだよね。みんなは私のことフルネームで『コガリナ』って呼んでる。莉奈ちゃんとかでもいいけど」

「じゃあ、私は莉奈ちゃんでいいかな?」

「うん、もちろん」

 莉奈ちゃんは、少し私との距離感を測っている感じがした、少し考えてから言った。

「琴葉のこと、どう思った?」

「ちょっと圧倒されちゃった。直陽くんから聞いてた様子とはだいぶ違ったから」

「実はね、私もあんなにガンガン話す琴葉は初めて見たよ」

「そうなの?」

「まあ、たぶん月城君からの話を聞いて、あの子、思い込みの激しいところあるから、それで突っ走っちゃったんじゃないかと思うけどね。ごめん、迷惑かけたかも」

「ううん。ちょっとびっくりしたけど、大丈夫」

 私がそう言うと、莉奈ちゃんは何か逡巡しゅんじゅんする様子を見せた。

 でも、私もまだ莉奈ちゃんとの距離を測りかねていたし、晴れの日でもあったから、これ以上踏み込まれたくなかった。

「じゃ、試験勉強するから、また。ごめんね、長居しちゃって」

「あ、うん。こちらこそごめん。いろいろ。月城君と仲良くしてあげてね。あと、ついでに琴葉も」

 そう言って莉奈ちゃんは苦笑する。私は曖昧に微笑んで、その場を離れた。

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