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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第六章 朝霧あまね
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6-6

 それから数日後のことだ。まだ梅雨時のその日、直陽くんからの写真が来なかった。忙しいのだろうと気にもとめていなかった。

 翌日は直陽くんと同じバスに乗る日だった。私は時間ギリギリに到着した。直陽くんは軽く会釈をくれるだけで、すぐ目をそらしてうつむいた。この時になって何かあったのかもしれないと感じ取った。でも、晴れていたので私もそれ以上踏み込むことができなかった。バスの中でもお互い近付かなかった。直陽くんは私を見ることもなく、俯いたまま降りていった。

 次の日、激しく雨が降った。翌日も雨が続くことを確認すると、私はインスタのDMを開いた。


「直陽くん、なにか悩みことがあるのかな?私で良かったら話聞くよ」


 すぐには返事は来なかった。送って二時間ほどした時、通知があった。


直陽:「明日、何限から?」

あまね:「私は四限からだよ。直陽くんは?」

直陽:「俺は三限から」


 午前中空いているなら、そこでゆっくり話をした方がいいだろう。


あまね:「もし直陽くんが良ければだけど、いつものバスはどうかな?朝は早いけど、話す時間は取れるかなと思って」

直陽:「うん。ありがとう。それでいいよ」


 翌日も雨は続いていた。少し早めに家を出る。

 結構雨は強くて、私の小さめの傘では雨を完全に防ぐことはできなかった。バス停に着く頃には、肩や足が濡れてしまっていた。

 左の方から直陽くんがやってくるのが分かった。見えたわけではなくて、心の声が聞こえたから。

『あ、あまねさんだ』という声。それはどこか安心しているようでもあり、戸惑っているようでもあった。

 直陽くんの方を向く。直陽くんが軽く手を挙げたので、私もそれに応じた。

 近付くにつれ、彼の心の声が大きくなる。


『月城君のカメラになんて映りたくない』

『成瀬さんはどんな気持ちだったのだろう』

『俺は嫌われただろうか』

『普段あまり話しもしないのに、写真を撮りたい?気持ち悪い!』

『人の目も見れない陰キャのくせに!』

『成瀬さん一人の意見にすぎないことは分かってるはずなのに。落ち込む自分が許せない』

『成瀬さんはどんな気持ちだったのだろう』

『嫌われたかな』

『気持ち悪い』

『陰キャのくせに』

『気持ち悪い!』

『気持ち悪い!!』

『気持ち悪い!!!』

『気持ち悪い!!!!』


――「もううんざり!あなたのそういうとこ、本当に嫌い!!」


「あまねさん」

 ハッとして顔を上げる。

「ありがとう。雨だいぶ強いね。別の日にしてくれても良かったのに」

 ⋯どうして?

 どうして君は私を気遣う言葉を掛けられるの?心はこんなに傷付いているのに。

 あ⋯。

 気付いた時には、もう涙が止まらなくなっていた。

「ううん。気にしないで。でも確かに雨強いね。へへ」

 少し声が震えた。目も合わせられなかった。ここで涙を見せるわけにはいかない。肩の雨を拭くのに紛れて、頬の涙も拭き取る。

 ほどなくバスがやってくる。

 先に口を開いたのは直陽くんだった。

「昨日は本当にありがとう。ちょっと思う所があって⋯。あまねさんのDM、正直、嬉しかった」

「そっか、良かった」

 バスの屋根に打ち付ける水の音とエンジンの音が大きかったから、直陽くんは「駅に着いてからでいいかな」と耳打ちしてきた。私は大きく頷く。

 直陽くんはずっと黙っていたけど、雨が強い分、心の声はよりいっそう大きく聞こえていた。直陽くんの、「成瀬さんはどんな気持ちだったのだろう」「俺がいけなかったのかな」「気持ち悪いよな」「人物写真なんて俺が立ち入るべきではなかったんだ」ずっと逡巡する声が聞こえた。その苦しさが私の心の中にずっと流れ込んでいた。

 駅に着くまで会話はなく、直陽くんは窓の外を見つめていた。

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