5-16
「靖太郎は初めて?」
「何事も最初は初心者なりよ」
三人は大学近くの定食屋に来ていた。
「いいこと、言ってるような。小泉構文を言ってるだけのような」
「この俺に、彼女がいたことがあると思うなりか?」
自虐に取れなくもないが、靖太郎が言うと矜持にも聞こえるから不思議だ。
「私は、あってもおかしくないと思ってたけど」と莉奈が言う。
「ちょっと分かる。ふざけているようで、セイタって軸がある。ブレないよな」
「買いかぶりなりよ」
「ちなみにどっちから?」直陽は察しが付きつつも訊くと、
「どっちだと思う?」と莉奈が質問で返した。
直陽は二人を見比べながら、
「コガリナ」
答えると、
「なんで分かったの?」
と莉奈は驚く。
「何となく、な」直陽は曖昧に答える。
「いらっしゃいませー」という店員の声とともに、うちの大学の学生と思われるカップルが一組入ってくる。付き合い始めの雰囲気で、どこかぎこちない。隣のテーブル席に腰掛けるのを、直陽は視界の端で捉える。
「それでね、実は私も、誰かと付き合うのは初めてなのよ」
「え?本当に?」
「なんで驚くの?靖太郎も信じてくれなかったんだよね。こう見えて私、清純派だから」
直陽が反応に困っていると、
「ここは笑ってもいいなりよ」
と靖太郎が助け舟を出す。
「靖太郎は私のこと、よく分かってる」
直陽が、ふふっと笑うと、
「それより」莉奈が攻勢に出る。「月城君はどうなの?あまねちゃんとのこと」
「それは俺も気になってたなりよ」
「どうっていうか、見ての通りだけど」
直陽もどう答えたものか分からず、簡単に答えた。
「この前の年越しのイベントで見た限りだと、いい感じに見えたけど。本当に付き合ってないの?」
「そもそも、『付き合う』って何だろう?」
隣のカップルが少し気になってしまう。こういう話をしてもいいものだろうか。
「あるあるテーマなりね」
「『好きです、付き合いましょう』、『はい、そうしましょう』、っていう約束があれば付き合うってことなんじゃないの?」
「そういう口約束がなくても、実態として長く一緒にいて、友達超えの実態があれば、それは付き合ってると言えるんじゃないなりかね」
「その意味では」直陽はあまねのことを思い浮かべながら、慎重に言葉を選んで答える。「俺とあまねさんが付き合うとしたら、その両方があったとしても、まだ足りない気がする」
「分かる気がする」莉奈は生姜焼きの肉をつつきながら、何かを考えている様子だった。「あの子がまだ言っていない『事情』」
直陽は小さく頷きながら、
「でもそれも、ちょっと分かりかけてきた」
と言った。
「そうなの?」
「また話が進んだら、二人にも話すよ」
**次回予告(5-17)**
期末試験が終わり長期休業に入ったある日、あまねからLINEが入る。「今日、ちょっと会えないかな?」
第五章 『冬』編 完結




