5-15
一週間ほどたったころ、正月気分も覚めやらぬまま、再び学校が始まった。皆授業に身が入らない。直陽も例外ではなかった。
特に試験前になると面倒なのが、話したこともない学生に、突然話しかけられることが増えるのだ。
「月城君、あの授業出てたよね?」
誰だろう、どこかで見たような気もする。ああ、必修の授業で見たことがある女子かも。だが、名前は知らない。話したこともない。こういうときは大抵理由はあれだ。
「ノート見せてもらっていいかな?」
面倒なのでその場で見せる。すると、何の躊躇いもなく、その子はスマホでカシャカシャ写真を撮っていった。
「ありがとう。またね」
と言ってどっかに行ってしまった。「またね」か。気安く使わないでほしいな。あの子の「また」はきっと、次の試験の時なのだろう。
*
そうこうしているうちに、試験期間になった。中には「指定の教科書のみ持ち込み可」のテストもある。そういうテストは皆教科書に授業内容を書き込んでいる。さらにそうした教科書は先輩から受け継がれていく。だが、直陽は思う。やはり、自分は授業の流れを知って、それで教科書に自分で書き込んでおきたい。
「そういうとこはやけに真面目なんだよな」
図書館で一人勉強していた時にふと一人ごちた。少し大きな声になっていたかもしれない。少し慌てながら、勉強に戻る。周囲には知らない学生しかいないから、別にいいかと、思ったとき、「ん?」と言う声が本棚の向こうから聞こえた。
「あ、月城君」
そう言って本棚の端からひょこっと莉奈が顔を出した。
「ここで勉強してたんだ」
と言いながら、直陽に近付いてきた。手には新聞を持っていた。確か近くに新聞コーナーがあったはずだと思い出した。
「俺もいるなりよ」という声がした。「おつかれさん」
莉奈の後ろから靖太郎が現れた。
「一緒にいたんだ」
と直陽が訊くと、莉奈は
「うん、まあ」
と曖昧に返事をする。靖太郎はというと、後ろでニヤニヤしているだけだ。
「最近よく一緒にいるのを見かけるけど」
直陽がなおも訊くと、
「そうだっけ?」と莉奈はとぼける。
「まあ、何となく分かってたよ。もう隠さなくていいって」
と直陽が言いうと、莉奈は、
「いつから気付いてた?」と訊く。
「合宿の時、かな」
「え、でもあの時はまだのはずだけど」
「そっか。ただあの時、コガリナが寝言でセイタのこと呼んでたから、もしかしてとは思ってた」
途端に莉奈は頬を赤らめ、
「え?私は何か言ってたの?」
とやや大きな声を出した。
「ちょっと、出ようか」
と直陽は言い、二人をフロアから連れ出し、談話コーナーに避難した。
「なんか、集中が途切れてしまった」
直陽が言うと、莉奈も靖太郎も申し訳なさそうな顔をする。
「邪魔しちゃったね、ごめん」
莉奈がそう言うと、直陽は、
「いや、ちょっと今日は頑張ったし、そろそろ帰ろうかなと思ってたから、ちょうどいいよ」
と気遣った。
「じゃあ一緒に食事でもして帰るなりか?」
と靖太郎が莉奈をチラッと見ながら言った。
「いいの?お邪魔じゃない?」と直陽が言うと、
「大丈夫大丈夫。行こ行こ」と莉奈が応える。
「まあ、二人がいいならいいけど」
「じゃあ、決まりだね」
**次回予告(5-16)**
直陽、莉奈、靖太郎で食事をすることに。「付き合うって何だろう」という話になる。




