5-13
「めっっっちゃ美味しかった!」
夜道を歩きながら、汐里は両手を上下に激しく動かしながら、感動を全身で表している。
「みんなが喜んでくれて嬉しいよ」
そう言う莉奈を少し離れたところで見ながら、コガリナってすごいな、と直陽は思う。
時間は午後十一時五十五分。あと五分で年が明ける。今日買い出しをしたスーパーの裏手に公園があり、その一角に神社がある。それほど大きなものではないし、訪れるのはこの団地の住人だけだ。住宅地の中にあるということで、住人の何割かは年が明けてすぐにこの神社を訪れる。今も深夜だというのに、道を歩く人の姿は絶えなかった。
雪を踏み込むギュッギュっという音は一定の間隔で鳴り響いた。まるで来年へのカウントダウンみたいだと直陽は思う。
「莉奈ちゃんってやっぱり、すごいな。憧れちゃう」あまねはそう言いながら、少し寂しそうな顔をした。
その横顔を見ながら、直陽は、
「さっきあまねさん、何か考えてたよね。とろろの時」
と訊いた。
「ああ、思い込みって怖いなって。とろろで痒くなるのは誰でも当然だと思ってた。そういう身近なところにも思い込みが潜んでるなんて、って」
「さすがあまねさんだね」
「え?」あまねはぽかんとする。
「普段の何気ないものに対しても考察して、何かしらの意味を見出す。そして、普遍的なテーマと繋げる。それを日常的にやっていて、あまねさんと一体化している。誰にでもできることじゃないよ。俺はいつも君に驚かされる。俺は君に憧れる」
直陽とあまねは最後尾を歩いていた。二人の前は莉奈と汐里だったが、もう四・五メートルは離れていて、話し声はほとんど聞こえない。
「直陽くん」そう言ってあまねは直陽の横顔を見た。
「なに?」
直陽もあまねに顔を向ける。
「どうして⋯どうして直陽くんは、いつも私を安心させるような言葉を掛けてくれるの?」
直陽はあまねの目を覗き込み、優しく微笑む。
「君のおかげで、人の目を見られるようになった。人の写真も撮れるようになった。人の目を見ると、写真で切り取るように、その人の気持ちが分かるような気がするんだ。だから――」
雪のカウントダウンを止めてあまねの方を向く。あまねも合わせて立ち止まる。
「俺はあまねさんに大切なものをもらった。だから、俺もあまねさんが不安なとき、その不安を取り除きたい」
直陽の手は震えていた。それは素直な気持ちだったけど、去年までの自分には決してたどり着けない言葉だったから。
次の瞬間、あまねは直陽の震える左手を摑んで少し強引に歩き出した。
「今年が終わっちゃうよ。行こう」
そう言って、あまねは手を繋ぎながら、直陽の少し前を引っ張るように歩いた。前にもこういうことがあった気がする。ああ、プラネタリウムの時だ。
でもあの時とは違った。
あまねは直陽を振り返った。振り返って、直陽をまっすぐに見つめた。その目はやや赤みがかり、頬には一筋の涙の跡があった。
「直陽くん、ありがとう」
その声は震えていた。
手で軽く涙を拭うと、あまねは、
「直陽くん、私決めた。私も前に進む。いつまでも直陽くんに頼ってばかりじゃ、ダメだから」
と言って、あまねは直陽の手を強く握ったまま、一歩一歩、神社の方へと歩き出した。
気が付くと、少しだけ雪が舞っていた。また一段と寒くなった気がしたが、あまねと繋いだ左手はほのかに熱を帯びていた。
**次回予告(5-14)**
並んでお願いごとをする二人。「何をお願いしたの?」と訊く直陽に、あまねは「ナイショ」と言った。




