5-7
電車を乗り継ぎ、いつもの最寄り駅までやってきた。
雪はやんでいたが、足元はやや凍っているところもあって、気を抜くと転んでしまいそうだった。ゆっくりとバス停まで歩く。
「そういえば」バス停の前に並びながら、あまねが思い出して訊いてきた。「木島君、なんか言ってた?」
「なんかって?」
「恋愛的な話」あまねは少しぼかして答える。
「ああ。たぶんだけど、失恋したっぽい。どうして?」
「やっぱり。琴葉ちゃんがね、そのこと気にしてて。どうやったら元気付けられるかなってずっと話してた」
「へえ、成瀬さんが。やっぱり成瀬さんも少しずつ変わってるんだ。」
夏のことを思い出し、直陽は感慨深い気持ちになった。
その横顔を見ていたあまねが、口を開いた。
「みんな変わっていく。いつまでも同じ毎日が続くと思うのは幻想で、一時として同じ瞬間はない。」
「良くも悪くもね」
「うん。だから、私は良い方に変わりたい」
そう言ってあまねは直陽の顔を見たがすぐに目を逸らした。
「直陽くんはさ、年越し、どうする?」
「去年は実家に戻ったけど、今年はいいかな。実家にいてもやることないし」
「じゃあ――」
「うん。あのイベント参加しようかなと思う。今は部のみんなと、あまねさんと南条さんが、家族みたいなものだから」
あまねの表情がパッと明るくなり、「じゃあ、私も参加する!――みんな家族、か。いいね」
と言った。
あまねが続ける。「靖太郎君の家って行ったことあるの?」
「そういえば知らない。電車をちょっと乗り継いだ場所らしいけど、詳しくは聞いてない」
回送のバスが音を立てながら近くを通り過ぎる。排気ガスが澄んだ冬の空気に混じり、むせそうになる。
「神社が近くにあるって言ってたね」
「風情があっていいね。俺も実家にいる時は年越ししてすぐに近くの神社に初詣に行ってた」
「私も昔は行ってたんだけどね、最近は行かなくなっちゃった。行くとしたら、朝になってから、かな」
「確かに緋坂台、近くの神社まで遠いもんね」
「そうそう、初詣行くなら、街なかに出た方がいいし」
冷たい風が通り抜けた。終バスということで人の数も多くなってきた。皆一様に寒いのを我慢している様子だった。
「寒いね」直陽が言う。
「『外が寒いと、その分、心の中の温かさがいっそう際立つ』」何かの引用文を読み上げるようにあまねは呟いた。
「どこかで聞いたような――あれ?でも」
「そう、汐里ちゃんの言葉」
「もともとは『外が寒いと、その分、部屋の中の暖かさがいっそう際立つ』じゃなかったっけ?」
「ふふ。オマージュです」あまねは静かに笑ってみせる。
「なんか日文って感じする。あまねさんのそういうとこ、なんかいいなって思う」
あまねの頬が少し赤く染まる。
「年越し、楽しみだね」
直陽はそう言って、一週間後、あまねと二人並んで神社でお願い事をする姿を想像した。
**次回予告(5-8)**
直陽は、ベージュの日傘を差したあまねに、軽く手を挙げて「こんにちは」と言った。




