3-12
次に入ったのは三味線の部屋だった。ここでも、後輩と思しき部員と、先輩らしき部員が向かい合って、一緒に弾きながらアドバイスをしている。
「ここの音、ちょっと低いね」
見た感じ三味線にはギターのようなフレットはなく、恐らく耳で合わせるのだろう。演奏中にも糸を巻いているペグのようなものを調整しているから、ギターなどよりも難しそうな印象を受ける。
一音一音独特な音色で、やはり和楽器なのだなと思い知らされる。こういう場でもない限り目の前で見ることはなかっただろうと思う。
*
いくつかの部屋を回っていたら、琴葉がいた。
ちょうど琴が一人と尺八が一人で合奏の練習をしているところだった。
曲は、正月に聴く「春の海」よりももっと日本的という印象を受けた。。一分ごとに百くらいのリズムは刻んでいるが、耳慣れた和音や、感情に訴えかけるメロディーはほとんどない。規則性が分からず、ランダムに音が連なっているように聞こえるほどだ。
怒られること覚悟で近くで一人で練習していた別の部員に話しかける。
「あの失礼ですが、その、適当に弾いてるわけではないんですよね?音の規則性が分からなくて」
その部員は一瞬ぽかんとした。そして、何か思い出したような表情になり、説明を始めた。
「聞き慣れないとそう感じるかもしれないですね。音階がドレミファソラシドではなく、ミファラシドミが基本なんです。江戸時代の曲は和音も単純なものしかないんです。聴くよりも、演奏してみて初めて面白さが分かるというか。理解されにく世界かもしれません」
「なるほど。ありがとうございます」
ふと周りを見ると、琴葉が動かずに、真剣な眼差しで演奏を見ている。近づいていって、
「どうしたの?」
と訊くと
「あれ」と言って何かを指差した。「曲名」
改めて楽譜を見る。遠目でよく分からないので望遠で写真を撮り、拡大して見てみる。ほとんど何が書いてあるか分からなかったが、初めのところだけ読み取れた。たぶんそれが曲名だろう。
「秋の言葉」我慢しきれず、先回して琴葉が言う。
「ああ、これが!成瀬さんのルーツ」
「そう。私には難しくて、不思議なメロディーに思えるけど。こういう体験も悪くない」
写真を撮ることも忘れて聴き入る琴葉の横顔はどこか誇らしげに見えた。
パシャ。
「おい!わ、私を撮ってどうすんだよ」
「ごめん、つい」
少し怒ったように見えた琴葉は、しかし、次の瞬間、バツが悪そうに目をそらして言った。
「私なんか、撮ってくれて、ありがとう」
「とてもいい顔してた」
琴葉は、
「なんかムズムズするから、やめろ」
と言ったが、まんざらでもないという表情。
やっと本当に和解できたような気がした。
**次回予告(3-13)**
文芸部の知らない男子が直陽に話しかけてきて⋯。
**作者より**
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