3-7
直陽の二ターン目は青柳楓菜になった。
「青柳さん、二年の月城です。よろしく」
「はい、お願いします」
外の天気はだいぶ荒れてきたので、当然中を歩くことになる。
「青柳さんは、研修所と旅館、どっちで撮りたい?」
「どっちとかはないんですけど」
「うーん、じゃあ旅館側でいいかな」
楓菜は声を出さずに頷く。
研修所の方々から講師の話し声や、楽器の音が聞こえてくる。他の団体だろう。
旅館側に向かって歩きながら、直陽が話しかける。
「青柳さんはなんで写真部に入ったの?」
「なんとなくですね。芸術的なことがしたくて」
「絵を描いたりとか、音楽とかは?」
「それもいいなと思ったんですけど」
どこかで三味線の音が聞こえる。
それ以上待っても言葉の続きはなかった。瞬が言ってた口数の少なさというのはこれのことか。
そこまで話して、直陽は気付いた。この子、人の目を見ない。
そして華やかさのある顔立ちではないが、どこか儚さを漂わせていて、人の目を惹きつける。
旅館のロビーにはソファーやテーブルがいくつか置かれている。ロビーへの入口の角には自販機がある。
「何か飲む?」
「お金、部屋に置いてきてしまったので」
「ああ、いいよ。気にしなくて。ここで新入生に飲み物をおごるのが伝統なんだ」
「⋯じゃあ、これを」
二段目右端のジャスミンティーを指さした。直陽はお金を入れてボタンを押すと、ガコン、と音がして取り出し口に落ちてきた。それを取り出して、楓菜に渡す。
「ありがとう、ございます」
直陽もお金を入れて缶コーヒーを買った。
ロビーに入る。どちらからというわけでもなくソファーに座る。
「じゃあまず、青柳さんから撮ってみて。俺は適当にしとくから」
楓菜が何枚か撮る。
「どう思う?」直陽が訊く。
「⋯どうでしょうか」
まずはこちらの意見をあえて言わず、相手の感性を吐き出させる。それが大事だと思ったが、なかなか出てこない。
「じゃあ、今度は俺が撮るね」直陽が言う。「特にカメラは意識しなくていいから」
まずは俺の写真を見てもらうことにした。飲み物を飲む楓菜を何枚か撮る。
「今一番大切なものを思い浮かべてみて」
ほんの一瞬だったが、楓菜の表情が変わった。直陽はそれを逃さない。
写真を見せると、楓菜が僅かに驚く。
「どう?何か分かった?」
「なんか、心の奥を見られているようで⋯」
それ以上の言葉は出てこなかった。
確かに写真にはそれまでの楓菜にはない小さな変化が見られた。目の奥に潜む、焦り、悲哀、憧れ。見る人が見たら分かる。これは何を示すのだろう。
「そういうのを撮ればいいんですね」
楓菜の目に少しの「やる気」みたいなものが灯るのが分かった。
「これが正解というわけではないけど」
「まずは同じことをやってみようと思います。先輩の今一番大切なものを思い浮かべでみてください。先輩もちゃんとやってくださいね」
今一番大切なもの。会いたい人。話したい人。
――先輩もちゃんとやってくださいね。
なるほど、そういうことなのだろうか。
**次回予告(3-8)**
一日目の飲み会。直陽は瞬から、恋の相談を受けることに。




