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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿

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3-6

 このような講義が一時間ほど続いた。演習を交えての講義だったので、ほとんど時間を感じさせなかった。

 講師が退出した後は「条件付き自由撮影時間」となった。カメラを持ち、研修所内や近くの公園周辺を自由に歩き回り、写真を撮る。「条件」は、誰か部員と二人ペアになり、互いを撮ること。

 今年は人物写真がメインになった。去年の俺だったら嫌になってたかもしれないな――直陽はそんなことを考える。

 くじ引きをし、直陽は瞬とペアを組むことになった。

「木島君、よろしく」

「はい!お願いします」

 自由撮影時間といいながら、交流時間のようになっていることは、二年生以上なら誰でも知っていた。先輩と後輩が組み、先輩が写真に関するアドバイスをしながら話をするのだ。

 一時間半でひとサイクル。これを二サイクル行う。そのたびにくじ引きをする。

 研修所やその外の公園を歩いたりしながら瞬と会話をする。

 まだ降っては来ていないが、空気が湿っぽい感じがした。

「他の二人の名前は何だったっけ?」

青柳あおやぎさんと、鳴海なるみですね。青柳楓菜あおやぎふうなさん、鳴海暁人なるみあきと

「なんか、話しかけづらい感じの二人だったね。俺が言うのも何だけど」

「月城先輩は話しかけやすいですよ」

「そうなの?」

「はい。変な圧迫感がないんですよ」

「涼介やセイタは?あっちの方がフレンドリーな感じだけど」

「まあ、それもそうなんですけど、それとはちょっと違う感じです。すいません、うまく説明できません」

 空を見上げると、分厚い雲が漂っている。そろそろ来るかもしれない。

「一年生の二人とはどんな話をするの?」

「浪人してたのか現役なのか、実家はどこか、なんで写真部に入ったのか。そのくらいしかまだ話してないですね。青柳さんも鳴海も、口数が少ないんですよ」

「そういう感じだね」

「月城先輩はこの街の生まれですか」

「そうだね」

「実家暮らしですか?」

「いや、親と住むのが煩わしくなって、あと、一人暮らしはした方がいいって親に言われたこともあって、家は出てる」

「それは、ウィン・ウィンっすね」

「あはは、確かに」

 苦笑しながら手元のカメラに目を落とす。

 親は決して悪い人たちではない。どちらも公務員で、何不自由なく暮らしてきたし、「子供は金の心配はしなくていい」が親父の口癖だった。母も控えめな人でガミガミ言ってくるようなタイプではない。『親ガチャ』が話題なった時も、ああ俺は「当たり」なんだろうなと直陽は思った。だがどこかもの足りなさを感じていた。それが何なのか、今でもよく分からない。

 とにかく、一度親元を離れたいと思っていた。そのために、わざと交通の便の悪い団地に部屋を借りた。バスでしか通えない場所に。

 バス。

 混んだ車内。

 濡れた傘と湿気。隣に座るあまね――


 パシャ。

 瞬のシャッターの音で我に返る。

「どうですか?」

 撮った写真を直陽に示してくる。直陽は何も言えなくなってしまった。俺はこんな顔をしていたのか。

「切なさと幸せと、少しの未来」唐突に瞬がつぶやく。「中二病っすね。すいません」

 瞬は冗談めかして笑ったが、表情を変えない直陽を見て、真顔に戻る。

「《《誰のことを》》考えていたんですか?」

 瞬の顔をチラッと見る。

「木島くんは痛いところを突くね」

「見覚えがあるんですよ、その表情に」

「誰かが同じ表情をしていたと?」

「俺自身かもしれません」

 その時、雨がパラパラと降り始めた。

 二人はどちらが言い出すでもなく、研修所に向かって歩き始めた。

 研修所の出入口までは少し距離があり、中に入る頃には一粒が大きくなり、思いのほか濡れてしまった。

「本格的にやってきたね」

 髪の濡れを払いながら直陽が言った。

「なんかドラマみたいでワクワクしますね。『山あいの旅館、突如やってきた嵐に阻まれ、途中の道は寸断。電線や電話線も断ち切られ、外部と連絡が取れない』みたいな」

「写真部に殺人事件は起こらないよ。それに何人かのスマホはスターリンクに対応してる。みんなモバイルバッテリーも持ってるから、電源も簡単にはゼロにならない。ちなみに、セイタのリュックにはいつも小型の――小型って言っても三キロ以上あるらしいが――ポータブルバッテリーが入ってる」

「ほぼ筋トレですね⋯。殺人事件ドラマのテンプレ維持も難しくなりますね」

「さあひとターン目終了だ。ロビーに戻ろうか」


**次回予告(3-7)**


青柳楓菜とペアになった直陽。口数の少ない楓菜に苦労する直陽だったが⋯。


**作者より**


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