表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第三章 夏合宿
30/44

3-5

 写真部一・二年生は会議室で椅子を並べて腰掛けていた。窓の外には山の稜線が黒々映り、ややどんよりとした空も見えている。

 正面にはラックに据えられたプロジェクター。その横に立つのは、今回招かれた外部講師――雑誌や広告で活躍するプロカメラマン、白髪まじりの中年男性だった。

「みんな、今日はカメラの操作方法ではなく、写真をどう切り取るかを考えてほしい」

 講師の低い声が、広間の空気を引き締める。

「例えば――この窓から見える山並みを撮るとしよう。ただ山を写すだけなら、誰でもできる。だけど、そこに『誰が、どんな気持ちで見ているか』を重ねると、同じ景色でも写真は全く違ったものになるんだ」

 そう言って講師は窓辺に歩み寄り、シャッターを切る。スクリーンには、空と部員たちの後ろ姿が重なった写真が映し出された。

「ほら、山じゃなくて『山を見ている君たち』の写真になった。これで『夏の合宿で仲間と嵐の予感を眺めた時間』を切り取れる」

 部員たちは思わず声をあげる。

「人物を撮るのが苦手だという人もいるかもしれない。でも、写真は人と関わることで深みを増す。相手にどう立ってもらうか、声をかけるだけで表情は変わる。緊張していたら笑わせてみればいい。沈んだ気持ちなら、そのまま切り取っても構わない」

 講師の言葉に、直陽は胸の奥を突かれたような気がした。隣の涼介は「なるほどね」と頷き、靖太郎は「モデル撮影のときと同じなりね」と小声で呟いた。

 講師はさらに続ける。

「いい写真とは、技術的に完璧なものではない。見た人の心を少しでも動かすものだ。ブレても、暗くても、伝わるなら価値がある。だから、怖がらずに、目の前の人を撮ってみてほしい」

 静まり返った広間に、その言葉だけが重く、しかし温かく響いた。


**次回予告(3-6)**


自由撮影時間となり、木島瞬とペアになった直陽。あまねのことを考えているところを写真に撮られてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ