3-5
写真部一・二年生は会議室で椅子を並べて腰掛けていた。窓の外には山の稜線が黒々映り、ややどんよりとした空も見えている。
正面にはラックに据えられたプロジェクター。その横に立つのは、今回招かれた外部講師――雑誌や広告で活躍するプロカメラマン、白髪まじりの中年男性だった。
「みんな、今日はカメラの操作方法ではなく、写真をどう切り取るかを考えてほしい」
講師の低い声が、広間の空気を引き締める。
「例えば――この窓から見える山並みを撮るとしよう。ただ山を写すだけなら、誰でもできる。だけど、そこに『誰が、どんな気持ちで見ているか』を重ねると、同じ景色でも写真は全く違ったものになるんだ」
そう言って講師は窓辺に歩み寄り、シャッターを切る。スクリーンには、空と部員たちの後ろ姿が重なった写真が映し出された。
「ほら、山じゃなくて『山を見ている君たち』の写真になった。これで『夏の合宿で仲間と嵐の予感を眺めた時間』を切り取れる」
部員たちは思わず声をあげる。
「人物を撮るのが苦手だという人もいるかもしれない。でも、写真は人と関わることで深みを増す。相手にどう立ってもらうか、声をかけるだけで表情は変わる。緊張していたら笑わせてみればいい。沈んだ気持ちなら、そのまま切り取っても構わない」
講師の言葉に、直陽は胸の奥を突かれたような気がした。隣の涼介は「なるほどね」と頷き、靖太郎は「モデル撮影のときと同じなりね」と小声で呟いた。
講師はさらに続ける。
「いい写真とは、技術的に完璧なものではない。見た人の心を少しでも動かすものだ。ブレても、暗くても、伝わるなら価値がある。だから、怖がらずに、目の前の人を撮ってみてほしい」
静まり返った広間に、その言葉だけが重く、しかし温かく響いた。
**次回予告(3-6)**
自由撮影時間となり、木島瞬とペアになった直陽。あまねのことを考えているところを写真に撮られてしまう。




