3-4
テーブルの上には数十人分の同じメニューの食べ物が一人一人並べられている。今回はハンバーグだった。研修所は完全に貸し切りではなく、他のサークルと共同で使っている。食堂も同様だ。写真部は十名程度なので肩身が狭い。他には数十名規模もサークルもある。
二年生の三人は一番乗りだったようで、「写真部」と書かれた一角を見つけて座った。莉奈と琴葉も間もなく現れ、他の部員たちも揃う。
部長が、
「こうして見ると、うちの規模の小ささが目立ってしまうが、うちの部は少数精鋭。誇りを持っていきましょう!では、いただきます!」
と言うやいなや、皆目の前の食べ物にかぶりついた。
一分もしないうちに、ガタン!と大きな音を立てて、靖太郎と涼介が席を立つ。二人は競うように、食堂の中央に置かれたテーブルへと走っていく。
「先輩たちは何をしてるんですか?」と、やや真面目風な一年生男子部員が直陽に質問した。後輩は三人しかいないが、実は直陽は名前を知らない。
「あれは――おかわり、だね」と答える。こういうことを言うと、直陽も先輩になったのだなと自覚する。
「何か、競っているように見えますが⋯」
「ああ、毎年恒例でね。写真部の伝統みたいなもの。特に意味はなくて、やりたい人がやってるだけ。好きなタイミングでおかわりしたらいいよ」
「何かルールがあるんですか?」何故か興味を持ったようだ。
「最初のご飯を食べた後、最初におかわりをしに炊飯器に辿り着いた人が勝ち。ただし、必ずおかずに手を付けること。くらいかな」
「俺も、次やってみます」後輩は何故か目を輝かせている。
それにしても⋯と直陽は思う。この後輩は随分と積極的だなと感心してしまう。昨年の自分のことを思い出す。先輩と仲良くなろうという余裕はなかった。
「拙者の勝ちなり!」
嬉しそうにする靖太郎の後ろを、涼介が付いてくる。
「くー、悔しい!」
それを見たさっきの後輩が涼介に声を掛ける。
「先輩、ナイスファイトっす!」
「おー、慰めてくれるのか、お前。いいやつだな。すまん、名前が分からん。教えてくれ」
「俺は木島瞬っていいます。よろしくお願いします」
やや居住まいを正して名乗る。硬すぎない雰囲気が好印象だった。
「俺、先輩たちのポスターの写真見て入部したんです。ああいうかっこいいの撮りたいなって思って」
「どれが決め手になったなりか?」
「どれも、です。どんな写真でも撮れるオールラウンダーになりたいんです」
「目指すところがあるのはいいことなりね。合宿で教えることもあるから、そこでいろいろ話そうなり」
「はい!お願いします!」
他の一年生はどんな人なのだろうか。直陽は瞬の隣とその向かいに座る二人を見た。男子一人、女子一人。どちらも黙々とご飯を食べていて、会話があるようには見えない。
写真部は入部する時にグループLINEの登録とともに、インスタの相互フォローをするのが決まりになっている。もちろん写真部用に作ったアカウントでも構わない。そして、そのアカウントと氏名、簡単なプロフィールを記した小冊子が配布される。それを見れば氏名も分かるが、もちろ持ち歩いているわけではないので、すぐには確認ができない。
まあ、合宿の中で話す機会もあるだろう、直陽はそう思い、深追いをするのをやめた。
見ると、皆一通り食べ終わり、ガヤガヤと話を始めている。
直陽は立ち上がり、おかわりのテーブルに向かう。
炊飯器の隣には無料のコーヒーサーバーが置かれていた。他にも何人かがコーヒーを取りに来ていた。
食堂のおばちゃんが近くにやってくる。空になったおかわり用の白米を追加しに来たようだ。
おばちゃんは直陽に、
「今日はたくさん学生さんが来てますね。この時期になると、いよいよ秋めいて来たって実感するんですよ」
と話しかけてきた。
「何団体くらい来てるんですか?」
「今は三団体ね。明日もう一つ来るみたいだけど」
小さな釜から大きな釜へ、よいしょと白米を入れながら、そう教えてくれる
「そうなんですね」
席に戻り、ゆっくりしていると、部長が昼食の終わりを告げた。
「では、次は講義の時間になります。二階の中会議室Cに集まってください」
**次回予告(3-5)**
写真部一・二年生に向けて外部講師の講義が始まる。講師の言葉に、直陽は胸の奥を突かれたような気がした。
**作者より**
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