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晴れた日には、恋をする  作者: 月舟 蒼
第二章 夏

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23/41

2-10

「いつか、成瀬さんともこうして話したいと思ってた」

 店内は再び喧騒を取り戻し、学生やサラリーマンの笑い声が響いている。

「そう、なの?」

「ほら――気を悪くしたらごめん――俺たち、陰キャメンバーじゃん。人と目合わせられないし、セイタみたいに吹っ切れてるオタクってわけでもないし」

 莉奈と靖太郎は気を使ったのか、少し離れたカウンター席に移動していた。涼介はというと酔い潰れて座敷席の畳の上で寝息を立てている。

「そう言われるのは、悔しいけど、その通り、だね。本当のこと言うと――」

 琴葉は一瞬ハッとして莉奈の方をチラッと見る。莉奈は靖太郎と話していてこちらを気に掛ける様子はない。

「ちょっと怖いけど、いいよ」直陽が促す。

「⋯⋯初めて自己紹介された時――去年の新入部員紹介の時だけど――『直陽なおはる』って名前見て、似合わねー、って思ってた」

「ああ、それはよく言われるよ。直射日光みたいな名前の割りに、人の目見れないし、夏っぽくもないって」

「まさに、そんな感じ。でも――」少し自嘲気味に琴葉は続ける。「私もそう」

「成瀬さんの名前、琴葉っていうのは、どういう意味があるの?」

「私のお母さんは、大学生のころ、琴を弾いてたらしい。それで――私は何度も聞かされてウンザリな話なんだけど――『秋の言葉ことのは』って言う曲があるらしくて、それがお母さん好きだったんだって」

「それで、琴、言葉ことのは、で琴葉ことはってことか」

「そう。まともに言葉も出てこないのに」

「名前って、面白いね」

「月城君は、どうしてそんなに変われたの?」

「俺、変わったのかな」

「変わった」

「そう、なの?自分では分からない――あ、でも最近気付いたことがある。人の目を見るようになってた。人の目を見た方がその人の気持ちが分かるから」

「人の気持ちが分かるって、怖くない?」

「怖くないって思わせてくれた、のかな」

「⋯⋯あまねちゃんが?」

「⋯うん」少し胸が苦しくなってくる。

「そういえば、私、あまねちゃんと話しているときも、目見てないかも」

 琴葉は、天井の端を見つめ、何かを考えていた。

「⋯なんか、分かんないけど、分かった気がする。⋯私も、変わる」

 そう言って、琴葉は顔を挙げて、直陽を見た。

「何か、見える?」琴葉が訊く。

「成瀬さんの、決意。⋯成瀬さんは何か見えた?」

「あまねちゃんと話したい、って」

 ふふっと直陽は自嘲気味に笑って、目の前の飲み物を飲み干した。

「でも」ニコッと笑って直陽は続けた。「成瀬さんは、俺が変わったって言ってくれたけど、成瀬さんも変わったんじゃないかな。少なくとも今は言葉が自然に出てるように見えるよ」

「確かに。なんでだろうね。月城君なら見下されないって思ってるのかな」

 不思議なことを言うなと直陽は思う。

「見下しようがないよ。俺だって大した人間じゃないんだから」

 そう言って周囲を見渡すと、いつの間にか、席はまばらになっていた。時計を見ると終電が近いことに気付く。

「そろそろ、涼介を起こそうか」と言って立ち上がった。


**次回予告(2-11)**


打ち上げが終わり、駅で解散となる写真部。

その直後、男子と二人でいるあまねを目撃してしまう。


**作者より**


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