2-9
直陽は全てのテストが終わり、部室へ向かった。
部室の扉を開けると、写真部の二年生が勢ぞろいしていた。涼介、靖太郎、琴葉、莉奈。
「お、来たね」莉奈が最初に気付く。
「どうしたの?みんな揃って」直陽が不思議そうに訊く。
「何言ってんだよー」涼介が満面の笑みで答える。「な・つ・や・す・み!だろー!」
「ほら、コガリナがみんなに訊き回ってたじゃん。テストいつまでかって」靖太郎が続ける。
「というわけで、飲みに行きましょう!」
こういうときも引っ張っていくのはコガリナなんだなと感心する。
*
大学近くの大衆居酒屋に入った。直陽と靖太郎はほとんど飲めないので、お酒は付き合い程度。他の三人はそれなりに飲む。
「おい、ちゃんと飲んでるかー?」涼介が絡んでくる。
「今どきそんな絡み方するやついるんだな」直陽が呆れる。「というか一応俺まだ十九だからな」
「ところで⋯成瀬さんが全然発言してないなりよ」靖太郎がそう言うと皆の視線が琴葉に集まる。
「⋯みんな、知ってる、でしょ。私がそんなに、しゃべらないの」
「朝霧さんの前では饒舌だったなりよ」
「それは⋯あまねちゃんだから⋯」
「あ、そこ訊きたかったなりよ。なんでそんなに朝霧さんに入れ込むのか」
「だって!こんな私の話聞いてくれるし、月城君が小説コラボしてるって言ってたから、私もやりたいって言ったら、いいよって言ってくれたし!私の撮る写真をいつもいいね、って言ってくれるんだよ」
そこまで言い終わって、一瞬その場に静寂が走る。
「琴葉、ちょっといいかな」
と言って、莉奈が琴葉を連れて席を立つ。
「んー?なんでコガリナ、成瀬さん連れてったんだ?」
完全に出来上がっている涼介が疑問を漏らす。
「何となく何を話すのか分かるなりよ」
涼介がなおも分からないという顔をしながら直陽に顔を向ける。
「直陽は分かる?」
「⋯さあ」
「涼介⋯君は少し黙った方がいいなりよ」
靖太郎が珍しく言葉の端に僅かな怒気を滲ませる。
カランと氷の溶ける音だけが周囲に鳴り響いた。
*
少しすると莉奈と琴葉が戻ってきた。また琴葉はしゅんとしていた。
「いや、なんかごめん。気を使わせちゃったみたいで」直陽が口を開く。「今日はテストお疲れ様でした会だよね。とりあえず、飲み食いしよう!」
「そだね。琴葉、私もごめん」
莉奈が言うと琴葉は僅かに莉奈を見る。その目は「許してくれるの?」と訴えかけているようだ。
「コガリナ氏、何頼むなりか?」
「じゃあ、カシオレ」
直陽も琴葉に向き直り、
「成瀬さん、何か飲む?それとも食べる?」と訊く。
その時だ。
琴葉が何かを呟いた。
「え?なに?」直陽が訊き返す。
「⋯なんで⋯なの」
「え?」
琴葉は突然テーブルを叩き、叫んだ。
「なんで月城君は!!」
騒がしかった店内が途端に静まり返り、全ての視線が琴葉に集まった。
「なんで月城君は⋯そんな風になれたの⋯?⋯なんで、なんで私だけ⋯」
消え入るような声が静かに響いた。
**次回予告(2-10)**
直陽は琴葉と二人だけで話すことに。そこで琴葉がずっと思ってきたことを告げる。




