2-7
「それで話って?部室では話せないようなこと?」
直陽はB校舎裏のベンチに座っていた。隣には汐里がいた。
「うん」
「もしかして、あまねのこと?」
十分前、文芸部の扉をノックした。あまねがいたらいたで何かを話そうと思っていたが、そこにいたのは、この前あまねが談笑していた「直陽の知らない男子学生」だった。
「何か用ですか?」その学生は答える。
「あ、向かいの写真部の月城といいます」
「ああ、朝霧が最近写真部の人たちに小説書きを手伝ってもらってるって言ってた。その関係の人?」
「あ、はい、そんなところです」
この人があまねと話していたあの人。どんな関係なんだろう。直陽は、鼓動の高まりを抑え、あくまで平静を装う。
「礼を言わなくてはいけないな」その学生は言う。「うちの朝霧がやっと小説を書く気になった。力になってほしい」
「あ、こちらこそお願いします。下の名前は直陽、月城直陽っていいます。二年生です」
「俺は久我悠人。三年生。ここの部長だ。よろしく」
久我と名乗ったその学生は、知的で柔らかな物腰をしていた。自信に満ち溢れていて、直陽とは真逆とも言える。そういう人を見ていると劣等感で押し潰されそうになる。
「はい。こちらこそ、新しいことができて、写真部としても光栄です」
「それで今日は?朝霧なら、今日はまだ来ていないが」
「あー、南条さんにちょっと伺いたいことがあって」
「南条なら、たぶんそろそろ来ると思う。いつも二限終わりには必ず寄るから」
そうして五分もしないうちに汐里は現れた。
「お、久しぶり、月城君。どうしたの?」
「ちょっとお話が。いいですか?」
「うん、いいよ」
何かを察したのか、汐里は何も訊き返さず、直陽の後をついて行った。
*
「はい、あまねさんのことです。最近、彼女どうですか?」
「どう、とは?」
「南条さんから見て、変わったところはありますか?」
「ここのところ、ちょっと静かな気はするけど、私とは普通かな。月城君には違う?」
「⋯と思います」
「うーん、ああ見えて結構繊細なんだよね、あまね」
「俺、何かしたかな」
「⋯うーん、どうかな。正直私も分からないんだよね。なんか一人で抱え込んじゃうところもあるし。今のところ、私から言えるのはそのくらいかなあ」
「そう、ですか。テスト中にお手間を取らせました」
「私はもう全部終わったから大丈夫だよ。何か分かったら連絡するよ」
LINEを交換して、汐里と別れた。
**次回予告(2-8)**
再び莉奈に勇気づけられた直陽は、少しでも動こうと決心する。




