1-11
その日はあまねに写真を送ることはしなかった。どうしてもそんな気にはなれなかったからだ。
次の日久しぶりに日が差した。梅雨の合間の晴れだった。
カラッと晴れていて、洋服が身体に張り付くことのないさらっとした感覚は久しぶりだった。朝の天気予報でもアナウンサーは「今日は久しぶりに気持ちの良い一日になりそうです」と元気に話す。
しかし、直陽の心は、全くそんなことはなかった。気持ちは落ち込み、できることなら誰とも話したくなかった。
今日は例の授業の日だ。朝早くバス停に並んだ。直陽が着いた時、既に何人か並んでいたが、あまねの姿はなかった。
バスがほぼ定時にやって来る。それに合わせるかのように、ゆっくりとあまねが現れた。あまねはちらっと直陽の姿を見た。
その視線を感じて直陽は軽く会釈をするが、あまねも直陽の雰囲気を察したのか、軽く会釈をするだけで、話しかけてはこなかった。
バスもそれほど混んではいなかったので、結局直陽とあまねは近付くこともなく、駅に到着した。先に直陽が席を立ち、バスを降りていった。その時あまねがのどんな表情をしていたのか、直陽は見ようともしなかった。
その日の夜、また激しく雨が振り始めた。地面に水が叩きつけられるその音を聞きながら、直陽は、琴葉の言葉を思い出していた。
――私は月城君のカメラになんて映りたくない。
琴葉はどんな気持ちだったのだろう。俺は嫌われただろうか。よく分からない男子に、突然写真を撮りたいと言われたのだ。気持ち悪いと軽蔑されたかもしれない。琴葉とはそれほど話をしたことがあるわけではないし、特別な思いがあるわけでもない。それでも一人の人間に拒絶されたという思いが、直陽の柔らかい心を鋭く突き刺していた。今でも胸がチクチクと痛む。
ふと習慣で、インスタを開く。部員たちが何枚か写真を挙げている。そこには涼介や靖太郎の写真もある。涼介はクラスの友人たちのキラキラした写真を何枚も挙げていた。靖太郎も、直陽には分からないが、恐らくはその世界では有名なキャラクターなのだろう、サーベルを持った黄色いバニーガールの写真を何枚か挙げていた。
やはり自分には縁のない世界だったのだ。簡単に入り込める場所ではなかった。
その時、画面の端にDMの通知を示す赤い点が光っているのに気付いた。誰だろうと思い、それをタップする。
あまねだった。
「直陽くん、なにか悩みごとがあるのかな?私で良かったら話聞くよ」
唐突だった。
あまりに考え過ぎて、あまねとやりとりをしていたことをすっかり忘れていた。
次の瞬間、自分でも分からない感情の波が、堰を切ったように溢れ出てきた。自分の部屋に一人でいたせいかもしれない。誰にも見られていないという安心感もあったのかもしれない。直陽は次から次へと溢れる涙を止めることができなくなっていた。堪えようとしても止まらない。
あまねには話そう。あまねなら、あまねとなら、何かが変わるかもしれない。
直陽:「明日、何限から?」
あまね:「私は四限からだよ。直陽くんは?」
直陽:「俺は三限から」
あまね:「もし直陽くんが良ければだけど、いつものバスはどうかな?朝は早いけど、話す時間は取れるかなと思って」
直陽:「うん。ありがとう。それでいいよ」
**次回予告(1-12)**
雨の中、バス停であまねが直陽を待っていて⋯。
直陽は立ち直ることができるのか。直陽とあまねの関係は?
いよいよ第一章「梅雨」編、完結。




